2002年01月18日発行722号

【インターナショナル アルゼンチン債務危機 民衆の怒りで政権崩壊】

政権崩壊させた抗議デモ

 昨年十二月十九日、経済危機が深刻化するアルゼンチン各地で、失業中の住民らが商店を襲い食料品などを略奪する暴動が発生した。首都ではデラルア政権の退陣を求める住民数万人が抗議デモを展開。自宅の台所から持ち出した鍋を叩きながら退陣を訴える主婦など市民で幹線道路が埋め尽くされる事態の中、翌二十日デラルア大統領はついに辞任を表明した。

 同政権崩壊後も市民の抗議行動は収まらず、わずか二週間足らずの間に五人の大統領が入れ替わるという異常事態が続いている。その根底にあるのは、アルゼンチンを支配してきたIMF(国際通貨基金)による新自由主義路線の完全な破綻である。

IMF路線に怒る民衆

 アルゼンチンでは四年間におよぶ深刻な不況で、失業率は公式統計でも一八%に上昇。一方で、政府が抱える公的債務は千三百二十億ドル(約十七兆円)という天文学的な数字にのぼり(国内総生産の約半分)、経済は完全な崩壊状態にある。こうした経済崩壊を引き起こしたのが、IMFによって緊急融資と引きかえに押しつけられた財政赤字削減政策であった。

 IMFの要求に対して、デラルア前政権は昨年初め、財政赤字削減のための最後の手段として失業手当の二〇%削減、公務員賃金の一五%カット、年金の一五%削減を打ち出した。その結果、マイナス二・一%と経済は収縮、新たに数百万人の失業者が発生し、工業生産は前年比マイナス二五%と壊滅的な打撃を受けた。人口三千七百万人の内、三分の一が貧困層に転落した。

 にもかかわらず、IMFは昨年十月、追加融資の条件として同国政府に対して公務員給与、年金カットによる「財政赤字ゼロ」政策という超緊縮財政を要求した。デラルア前政権は、債務支払いのため、IMFの要求どおりこの超緊縮財政を実行しようと十二月十七日、国会に二割削減の超緊縮予算案を提出した。与野党からは批判が噴出、政権支持率も七%と完全に国民の支持を失っていた。

 今回の暴動・退陣要求デモは、こうしたIMFによる緊縮政策押しつけとその言いなりの政府に対するアルゼンチン民衆の怒りの爆発だった。

史上最大の債務返済停止

 アルゼンチンは「IMFの優等生」と評されるように、八三年の民政移管以降、自由化・規制緩和・民営化など新自由主義路線を忠実に実行してきた。その結果、今日では銀行の九〇%、産業の四〇%が多国籍企業の支配下にある。一方で、国営企業のほとんどを売却し債務返済を実行してきたにもかかわらず、一九八三年に四百三十億ドルだった公的債務は、二〇〇〇年には千三百三十億ドルと三倍以上に膨らんだ。

 この債務危機について、同国の連邦裁判所は、債務増加の原因が独裁政権とIMF、民間銀行などの浪費と不正にあるとして「不正な債務」帳消しの交渉を行うことを議会に勧告している。

 デラルアと交代したロドリゲス暫定政権(当時)は、十二月二十四日から対外債務の返済を停止し、史上最大の「デフォルト(債務不履行)」となった。また、百万人の雇用拡大計画などIMFとは距離を置いた政策を打ち出した。こうした姿勢を規定していたのは、「国民生活を犠牲にしてまで対外債務を支払うな」「自国経済の再建を最優先に」という国民世論の沸騰だ。しかし、汚職政治家の入閣や与党内の内紛から、同暫定政権も退陣に追い込まれた。

 代わった現ドゥアルテ政権は、IMFの要求に応える形で、ドル建債務を膨張させ多くの国民・企業を破産に追い込む通貨切り下げ方針を打ち出した。犠牲の国民への転嫁に、再び民衆の怒りが噴出すことは必至であり、政治的・経済的混乱はいっそう拡大せざるをえない。

 アルゼンチンの事態が示しているのは、IMFの新自由主義路線が今や全く破綻しているという現実である。

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