2002年01月25日発行723号 ロゴ:なんでも診察室

【母乳と環境破壊】

 授乳中のお母さんから、「かぜ薬を飲んでも良いですか」と聞かれる季節です。「かぜを治す薬はなく、抗生物質も効きません。頭が痛かったり熱が出て我慢できない時はアセトアミノフェンという薬を買って飲んでください。咳止めは咳が激しい時にしましょう。部屋の加湿は効果的です」などと答えています。これは一般の方でも同じ事です。かぜの人にも不要な「かぜ薬」入り母乳は、赤ちゃんにとってまるきり迷惑です。

 母乳と言えば、狂牛病問題は未解決のことばかりですが、赤ちゃん用ミルクも大丈夫かどうかもはっきりしていません。当然、母乳の方がより安心ということになります。その他、病原体に対する抵抗、喘息性気管支炎などになりにくいなど、母乳には多くの利点があります。

 この母乳が脅かされているのです。最も深刻なのはダイオキシン・PCBなどの化学物質です。これらは、食物連鎖の頂点に立つ人間の母乳に最も濃縮されています。その悪影響は以前から指摘されてきていましたが、昨年十一月にランセットという世界的な医学雑誌の論文を読んでショックを受けました。

 「母乳なしの子どもと比べて、四か月以上母乳を続けた子どもの血液のPCB濃度は五倍である。PCB濃度が高ければ高いほど精神・運動発達が悪くなる。(三歳半までの調査)」という結果でした。百七十一人という限られた人数の発達テストで大きな差がでるということは大変なことです。ミルク会社の宣伝ではないかと疑ったほどでしたが、EU(欧州連合)の「環境と健康」などのプログラムに支援され、PCB対策が進んでいるドイツでの調査であり、研究方法が大変厳密なので、この結論は信頼できると思われます。

 日本小児科学会は、一九九七〜九九年の厚生省調査でダイオキシン類は全国的に欧米と同程度なので、母乳に問題はないと言っています。そもそも人間は哺乳動物です。その人間が、自分の母乳より、牛の乳を与えた方が発達に良いというような事態に陥っているのです。のんきなことを言っていないで、徹底的な対策を求めるべきです。

 ところで、日本のダイオキシン摂取の六割は魚介類からです。授乳中は近海魚や貝類は控えた方がいいかも知れません。また、紹介した論文は、PCBよりも母の感情的・言語的反応、両親の子どもへの関わり、おもちゃ、日常経験の豊富さなどの環境が、発達に大きな影響を与えるという結果も出しています。赤ちゃんは、家族・仲間が赤ちゃんと共に楽しく環境破壊と闘うことを望んでいるのでしょう。

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