2002年03月15日発行730号

ロゴ【「不審船」事件で隠されたもの 見過ごせない情報操作】

 二月二十六日海上保安庁は、昨年末、奄美大島沖で攻撃し沈没させた「不審船」の探査を始め、水深約九十メートルの地点で発見したと、ビデオを公開しました。

 この事件は、昨年十二月二十二日、奄美大島西方の日本の排他的経済水域内で見つかった「不審船」を海上保安庁の巡視船四隻が追尾、停船に応じないとして船体を射撃、接舷を強行して反撃され、「自衛権を行使」して攻撃沈没させたというもの。

根拠のない警告射撃

 排他的経済水域とは、海岸から二百カイリ(約三百七十キロ)の範囲で、海中・海底資源について沿岸国の管理権が認められる水域。国家主権が及ぶ領海ではありません。自由な航行が国際海洋法で認められた水域です。資源管理の権限に基づく密漁や漁船の違法操業の取り締まり以外は、停船命令も違法行為になります。たとえ軍艦であれ、密輸が疑われる船であれ(当然「不審船」も)、日本の法律を適用して停船させたり捜索できるのは、その船が領海(海岸から十二カイリ、約二十二キロ)に入ってからです。

 この事件で最も重要な点は、当時も今も意図的に触れられていません。第一に、場所が日本の領海外で、日本から離れる方向で(中国沿岸に向けて)航行していた船を追いかけていること。第二に、この船に「漁具が見あたらない」と海上保安庁自身が最初から言っているように、明らかに違法操業や密漁の可能性がないのに、漁業法を根拠に違法な停船命令と船体への「警告射撃」を行っていること。第三に、強行接舷への「反撃」に対して四隻で取り囲み、沈没に至るまで攻撃、少なくとも二名の死者と六名以上の行方不明者を生じさせたという事実です。国際法的には「不審船」の発砲の方が自衛であり、海上保安庁の発砲の方が違法である可能性が大きいのです。

 もう一つ、強調されていない事実があります。

 米国テロ事件からわずか三か月、朝鮮民主主義人民共和国はテロ国家だと決めつける日米の動きの中で、この「不審船」の出現は戦争への参加を拡大したい政府にとって、大変タイムリーなものでした。

 実際には、この船は早くから米軍の軍事偵察衛星の監視下にあり、同時期に自衛隊も通信傍受施設でこの船の無線暗号交信を傍受し、所在を確認しています。その後、海自のP3Cが『発見した』と公表している(1/26産経)のです。

「北の脅威」を演出

 この事実は、防衛庁・自衛隊が、米軍と密接に連携しながら高度な情報収集能力を持っていること、日本周辺の海域の「不審船」らしきものはしっかり監視しており、その正体や周辺諸国の情報をつかんでいることを示しています。九七年に新設された情報本部は、全体の再編成の中で唯一毎年増員され、来年度には偵察衛星四基の運用も計画されています。

 同時に、彼らの収集した情報が、公表されるときには必ず「加工」されて発表されているということを示しています。この場合も、防衛庁の情報は隠されてきました。政府に都合のいい情報だけが都合のいい時期に発表されています。「北の脅威」を演出するために、この船と乗組員の命を生けにえにしたともいえます。

 隠された情報の追究そのものを軍事機密の漏洩・利敵行為として取り締まることは、有事立法の重要な要素です。今国会での有事立法論議に、情報操作の視点からも注目しましょう.。

 井上 三佐夫

(平和と生活をむすぶ会)

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