2002年03月22日発行731号

ODA疑惑は暴かれたか―鷲見教授インタビュー

【ムネオは新興勢力、根深い利権構造 / 人権・環境破壊の援助を告発】

 国会議員鈴木宗男が絡む「援助」事業の不正事件は大きな政治焦点となっている。だが、「援助」を食い物にする汚職ばかりが問題なのではない。日本のODA(政府開発援助)は、「援助」受入国の住民の生活や環境を破壊し続けてきた。長年にわたりODA問題を告発してきた鷲見一夫(すみ・かずお)新潟大学教授にODA利権構造について聞いた。(三月六日、まとめは編集部)


飛び火おそれる外務省

  鈴木宗男に話題が集中していますが。

顔写真
1938年愛知県生まれ。専門は国際環境法。著書に『世界銀行―開発金融と環境・人権』(築地書館)『ODA援助の現実』(岩波新書)、共著に『アメリカはなぜダム開発をやめたか』(築地書館)。

 「ムネオハウス」で「援助」問題が一挙に表面化した観があるが、鈴木はいわば新興勢力。ODAの利権構造は、アジア諸国への戦時「賠償」から続いている根深い問題だ。

今回の一連の事件で共通しているのは、コンサルタント会社の日本工営(株)が絡んでいることだ。外務省と日本工営との関係は四十数年前とまったくかわっていない。一九五三年から六年間、日本工営の設立者・久保田豊は「外務省調査員」の肩書きでアジア各国を回り、ダム建設を売り込んで独占受注した。戦時賠償案件に採用されて、企業の契約額が政府の賠償額になった。日本工営は、インドネシアで三つのダムのコンサルタント料として、当時の額で百億八千万円を手にした。

グラフ:円車間の供与額上位国インドネシアが3兆4493億円と群を抜いてトップ。以下中国、インド、タイ、フィリピン、マレーシア、パキスタン、韓国と続く

いま、ケニアのソンドゥ・ミリウ発電所(注1)が問題になっている。第一期の「援助」額七十億円のうち日本工営は十八億円のプロジェクト監理費を受け取っている。この金がモイ大統領などのケニヤ政府関係者、さらに鈴木や他の日本の政治家に回っている可能性がある。

 鈴木は外務省と日本工営・商社・ゼネコンなど、不明瞭な関係につけ込んだ。「援助」先として、盲点だったロシアに目をつけ、それからアフリカに広げてきた。

 外務省の調査報告書では、利権構造を守るため鈴木を切り捨てた。他の政治家に飛び火するのを恐れている。ただ自民党は鈴木を集金マシーンとして利用してきたし、処分して居直られても困るといったジレンマがある。

  中国へのODAが増えていますが。

 インドネシアのスハルト政権が倒れてからは、中国が最大のODA受け入れ国となった。いずれも独裁政権。なぜか。

 インドネシアは石油や木材の資源開発、中国は企業進出のインフラ整備・市場拡大などの日本企業の利害がある。その上、単年度予算方式をとる日本としては、独裁政権はとてもやりやすい。反対があろうが政府がやるといえば、必ず予算執行できる。

「いい援助」は幻想

 中国では、「援助」の八割方が中西部開発に投資されている。ハイウェイ・鉄道建設と資源開発。インドネシアでも道路整備が先行した。それは、軍隊の移動にとって、とても大きな意味がある。ジャカルタや北京から少数民族の地域に軍隊が展開できるからだ。

 「援助」はいいものだというのは幻想にすぎない。むしろ、独裁政権による弾圧に手を貸しているという認識をもたねばならない。

ODA問題の典型例の一つとして、インドネシアのコトパンジャン・ダム(注2)の問題があります。現状は。

 九六年にダムが完成し、貯水が始まってから五年になる。いまだに水没地の住民に対する移転補償は十分には行われていない。ダム貯水池周辺の移転地では、飲料水にも事欠く有り様だ。約束されたゴム園には苗木さえ植えられていない。現地では補償の約束を果たさないインドネシア政府に対して裁判が起こっているが、そもそも日本のODAさえなければこんな事態にならなかったと住民は考えている。

 外務省・JBIC(国際協力銀行)は、「インドネシア政府の責任」と、これまでそ知らぬ顔をしてきた。だがここにきて、この三月に事後評価調査団を送ることになったが、外注(受注企業は日本工営)という特例措置が講じられた。問題が生じているのは認識しているようだ。

インドネシア・コトパンジャム・ダムによる
移転地の子どもたち。
「援助」は豊かな生活を破壊する
写真:カメラを見つけて駆け寄り手を振る子どもたち

 ダムは何らかの欠陥があり計画水量を貯めていない。いま百世帯ほどが、一度は水没した元の村に戻っている。他の百世帯は移転先の家から元の農地にかよっている。移住先に移った他の人々も、決して納得しているわけではない。ダムさえなければ、豊かな自然の恵みを受けて、これまでどおり何不自由なく暮らしていける。

ODAを裁く訴訟を

 いま現地の人々とともに、日本政府を訴える裁判の準備をしている。原告は数千人規模になるはずだ。日本政府の責任を問い、ダム撤去を要求するものになっていかざるをえないだろう。

  日本での訴訟の意義は。

 このダムにも不明朗な金の動きがある。日本側は三百億二千五百万円の「援助」をしたといっているが、インドネシア側は二百十五億三百万円だとしている。八十五億円以上の差がある。インドネシア側で消えたのか。日本の政治家が分けたのか。外務省の渡し切り費などに流用されたのか。使途不明金があまりに多すぎる。

 こうした利権構造を解明する必要があるが、ODA問題は汚職問題だけではない。住民が望まない援助とは一体何なのかを問うことだ。コトパンジャン・ダムでも、ケニアのソンドゥ・ミリウ発電所でも、現地には反対の声はないと政府は答えているが、軍隊によって反対の声を圧殺しておいて、それはない。スハルト一族の企業のために強行されたプロジェクトによって、どうしてインドネシア国民が三百億円もの借金を背負わなければならないのか。

 一方、日本国民も、税金・財投資金などの公金が不当に使われていることを納税者として見過ごしていいのか。まして、現地の人々の生活や文化を破壊するために使われているのを黙っているわけにはいかない。そんな観点での裁判も必要と思っている。インドネシアと日本双方において健全な市民社会を築くためにも、徹底した追及をしていきたい。

 ありがとうございました。

(注1)八九年からはじまった第一期の円借款に続き、現在第二期分百六億円の供与を巡り、鈴木疑惑が浮上。発電所本体工事は鴻池組が受注、九九年、一期工事に着手。電力需要もなく、干ばつ被害が出ている地域での水力発電。生活水を奪う無謀な計画に住民は反対している。

(注2)スマトラ島中部に位置する多目的ダム。日本政府は人権・環境に配慮したモデルケースとしている。実態は、移転補償の約束は履行されず、希少動物の保護はなおざりにされ、人権・環境破壊が進行している。

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