2002年04月19日発行735号

【アフガニスタン戦争被害調査<下> 平和と呼べない軍事力の支配】

 アフガン難民キャンプでの聞き取りや現地NGOとの交流で明らかになったのは、今回の米英軍の武力行使が二十年以上の内戦で疲弊していたアフガン民衆の苦難をいっそう深刻化させたことだった。同時に、軍事力に頼った現在のアフガニスタンが、平和と呼ぶには程遠い状況であることも鮮明になった。

難民キャンプ内に広がる
犠牲者の墓(ペシャワール)
写真:墓石に寄り添うように立つアフガンの子ども

 三月十八日にペシャワール近郊のニューシャムシャトゥ難民キャンプを訪れたとき、偶然にも前日の夜にカブールから避難してきた難民と会うことができた。

 ナンギャライさんは、「タリバン政権が倒れたあと、しばらく様子を見ていましたが、危なくなったので、三月十五日に荷物をまとめ、妻と四人の子どもとともにカブールを出ました」と語った。やはり、すごい斜面ででこぼこの山道を歩いて国境をこえた。証言で印象的だったのは、「すでにカブールには親戚も頼るべき友人も残っていませんでした。私たちが最後に逃げました」という言葉だ。

 インタビューを取り巻き見守っていた他の難民からも、「アフガン国内には、親戚や知り合いは誰一人としていない」「われわれは親戚がここにいるから、この難民キャンプに来たのです。他に移されては困ります」「家も畑も仕事も何もかもなくなりました。私たちには故郷が平和になることを願うことしかできません。そのときでないと帰れません」の言葉が出てきた。一族の中で最後となる避難民を国外に追い出したのが、米英軍の空爆だったのだ。

 三月十七日付けのパキスタンの有力紙「DAWN(夜明け)」は、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)が今後三年間で二百三十万人の難民を自発的に帰還させるプログラムを促進する方針であることを伝えた。しかし、彼らの調査でも、「直ちに帰還することを望む難民」は約三〇%で、他の三〇%は「祖国に完全な平和と安定が回復されたあとに帰りたい」だった。また、都市部に住み仕事に就いた難民の四〇%が国に帰ることを望んでいないという。

タリバン時代より悪い

 「タリバン政権時代よりも現在のアフガニスタンは治安が悪く、とても平和と呼べる状態ではない」と断言したのは、「ペシャワール会」PMS基地病院事務総長のイクラム・ウラー・カーンさんだ。

 「タリバン軍は全くの非正規の志願兵ばかりでした。それでも国土の九五%を完全に支配していた。現在、アフガンにいる軍隊は、アメリカやイギリス、ドイツなど他国の正規兵の連合軍です。それで、国土の半分も支配することができていない。以前の方が治安ははるかによかった」というイクラムさんは、二つの例を紹介した。

子どもたちの未来に
空爆・軍事力はいらない
(イスラマバード・難民居住区)
写真:黒板を取り囲んで算数の勉強をする子どもたち

 以前は、武器を持たずとも夜でも旅行をすることができた。しかし今、カブールからジャララバードへの移動だけでも、午後からではたいへんな危険が伴うという。早朝でも危険だ。唯一可能なのは、米軍の偵察機が空から監視をしている日中だけだという。

 もう一つは、首都カブールの治安の状態だ。カブール市内は国際治安支援部隊(ISAF)が警備しているので安全だと言われている。しかし、イクラムさんが実際に見たのは、治安部隊の兵士がいつも銃の引き鉄に指をかけた状態で、誰一人として近づくことを許さない姿だった。「兵士自身が、安全でないことをひしひしと感じているのです。極度の緊張感から精神的心理的影響が出ると思います」。

民衆の自立を支援

 イクラムさんが最も心配するのは、民衆の状況だ。

 「二十年以上の内戦で、経済的にはアフガニスタンは終わりました。いまはパキスタンやイランなどの隣国からの流通に頼っています。今回のアメリカによる侵攻がさらに悪化させました。アメリカは食糧を供給していると言いますが、最初に爆弾を落として人を殺してから、パラシュートで投下される物資を人々は決して受け取りません。アフガン民衆は経済的には確かに貧しいですが、高い自尊心を持っています。彼らは物乞いをするくらいなら飢え死にすることを選ぶ人々なのです。しかし、徐々ではあれ容認する人も出始めています」。

 「カブール市内だけは、国際社会から供給される物資であふれています。その物資が届くのは、米軍に忠誠を誓う人々や支配層だけです。カブールからわずか五十キロ離れたところでは、食料不足で人々が飢えています。民衆の大多数は山岳地帯や小さな町や村に住んでいるのです」。

 ペシャワール会が取り組む援助は、民衆の自立と生活の回復を支えるものだ。「与えられる食料は食べてしまえば、次の日はゼロです。無料で物資を与えつづければ、人々は自活の努力をやめてしまいます」。

 二年続きの干ばつを契機とした井戸掘りによる水の供給につづき、四月からは最小の水で収穫をあげる最新の技術指導もはじめる予定だ。女性や子どもたちのための薬箱の提供もはじめた。また、カブールでは未亡人や孤児を対象にしたミシンのワークショップも開始した。「三か月間の指導を終了した卒業生には一台のミシンをプレゼントします。あとは自分で稼ぎなさいと。国内で人々が生産活動に励み、国際社会がこうした方法の援助を考えることで、初めてアフガンに平和がもたらされるのです」。イクラムさんは、軍事力でなく民衆の自立こそが平和を回復することを強調した。

次はアフガン国内調査

 第一次の調査を終えたばかりの東京造形大学教授の前田朗さんは、第二次調査の早期実施を考えている。

 「カブールやカンダハルでは国連主導で清掃作業が開始されている。復興は人々の生活のために必要なことだが、戦争被害調査を行わないままの清掃作業は、戦争犯罪の証拠隠滅と言わざるをえない」。次はアフガン国内での調査だ。

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