2002年04月26日発行736号 ロゴ:なんでも診察室

【水頭症の検査】

 『神の子たち』という映画を観ました。フィリピンのゴミ捨て場で再生可能な資源を集めて生活している人たち、特に子どもたちに肉薄した内容でした。私は同じような場所の側を通ったことがあります。煙と吐き気を催す臭いが漂っていました。

 登場する子どもの中に、非常に頭が大きい水頭症の子が二人います。脳室という所にたまる液をチューブで腹の中に流す手術をできなかったので、発達が遅れています。手術の費用は一家の年収の何倍かに当たると思われます。少なくとも一人は手術をしていればほぼ正常に発達しただろうと思いました。日本ではお金がない家族でも医療保護で手術できます。

 ちょうどこの時、ある育児関係の雑誌で、「乳児健診で頭が大きいので精密検査が必要と言われたがどうだろうか?」という質問に回答を求められていました。「大きい」というのは、百人中大きい方から二人ほどを言います。一九九九年の出生数は百七十万人ですから、三万四千人以上が「大きい」ことになり精密検査が勧められます。その大部分の方は不安を抱いて病院に行き、CT検査などを受けると思われます。

 「大きい」とされた子の中で、何人が手術で助かったのかのデータは、ずいぶん捜したのですが見つかりませんでした。しかし、日本の水頭症の発生頻度を調べた論文から推定すると、健診で発見される可能性がある水頭症は一万人に二人以下と思われます。すると、健診で百人中二人の「大きい」とされた子のうち、水頭症であるのは百人に一人以下になります。

 言い方をかえれば、百人中九十九人は不要な検査をされたことになります。日本の大きな頭の子とその親は不要な不安と費用を強制された上、CTなどの検査による害を受けていわけです。健診のシステムを改善すれば、これらの負担をずいぶん軽減できると思いますが、医療機器産業の利益にならないためか一向に改善されません。フィリピンの子どもたちはものがないため、日本の子どもたちはありすぎるための被害にあっているとも言えます。日本の健診システムの改善により減らせた費用を『神の子たち』の治療費や生活・教育費にまわせたらとの思いを強くしました。

 医療問題研究会では今年も六月フィリピンのAKAYラーニングセンターの子どもたちの入学時健診と親の診察に行きます。ここで学ぶ子どもたちの状況は、闘いによって大きく改善されてきています。彼らと共に、平和で不平等のない世界を目指し、今年は大変若い小児科医、内科医、看護師と理学療法士が行ってくれる予定になっています。

     (筆者は小児科医)

 

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