2002年07月05日発行745号

寄稿

日本製鉄元徴用工裁判を支援する会 中田光信さん

【次期総会で強制連行が議題に 退路断たれた日本政府】

 六月三日からスイスのジュネーブで開かれたILO(国際労働機関)第九十回総会で、日本政府が二九号条約(強制労働条約)に違反しているとして、従軍慰安婦問題や中国人・朝鮮人の戦時中の強制連行・強制労働問題を来年の総会議題とすることとなった。

 「強制連行・企業責任追及裁判全国ネットワーク」の一員としてロビー活動や傍聴に参加した「日本製鉄元徴用工裁判を支援する会」の中田光信さんに寄稿してもらった。


総会参加者に強制連行・
強制労働をアピール
(6月6日・ジュネーブ)
写真:会場に次々と入場する各国代表にビラをわたし横断幕で訴える全国ネットワークのメンバー

 今年三月に出されたILO条約勧告適用専門家委員会(注)報告は、「前回報告で、被害者の年齢や時間の経過の早さなどからも日本政府がこれらの人々の要求に満足できるやり方で対応できることを希望した。一年後の今、当委員会は日本政府が第九十回総会会期中、戦時慰安婦と企業強制労働者からの請求に応えるためにとられた方策について、詳しい状況」を報告することを日本政府に求めた。しかし、謝罪と補償を拒否し続けている日本政府は、毎年のように出される専門家委員会の勧告を無視している。

年々強まる国際包囲

 ILO総会はいくつかの委員会に分かれて事案を検討し全体会議で確認する。委員会で最も権威のあるのは常設の「条約勧告の適用に関する委員会」で、通常は「基準適用委員会」と呼ばれる。ここで出された結論や是正勧告を無視すれば、違反政府は国際的批判にさらされることになる。

 私たちは、この基準適用委員会が日本政府の二九号条約違反を議題とするように、毎年ジュネーブを訪れて働きかけてきた。

 どの議題を取り上げるのかの第一次提案権は、同委員会の労働者グループ会議にある。

 一九九九年の総会は、韓国の民主労総や韓国労総が中心となって提案したが、日本の連合が徹底して拒否したために労働者グループ会議としての合意には至らなかった。

 昨年の総会は、連合の反対を押さえて労働者グループ会議として議題とすることが決定したにもかかわらず、使用者グループの合意が得られなかったために、残念ながら総会の議題とはならなかった。

未解決の問題だ

 そして迎えた今年の総会。訪問したILOスタッフからのアドバイスは「今年はビッグチャンス。労働者側はもうまとまっている、次は使用者側だ。使用者を押さえる必要がある。できるだけ早く、使用者グループ議長と会って、労働者の要求に同意するように話しなさい」というものだった。

 連合は、昨年の経過から二九号問題はもはや避けられないとの判断の下、今年は公務員改革問題で九八号条約(団結権及び団交権保護条約)を取り上げ、二九号条約は来年取り上げることを提案してきた。

 六月六日に開かれた「基準適用委員会」で、労働者グループ議長が「日本の二九号条約という難しいケースがある。深刻な状況があり当事者の満足する解決がなされていない。労働者側・使用者側が共同して来年取り上げるべきと提案する」と発言。使用者グループ副議長も「日本に対しての指摘については三者が賛成しており、来年取り上げる状況である」と発言した。

 日本政府だけが「将来のことを今決めるような決定には意見を避けるべきであると考える。三者合意があるかのように発言されているが、そのような合意はございません」と、あえて労働者と使用者の合意を踏みにじる発言を行った。しかし、この日本政府の発言に対して、労働者グループ議長は「日本のケースを来年取り上げるのは、労使の共同のステートメントであります」ときっぱりと言い切り、来年日本の二九号条約違反を議題とする意思を表明した。

 いよいよ日本政府が具体的な措置を取らない限り、来年のILO総会で国際的な非難が日本政府に集中するところまで追い詰めてきた。日本政府は退路を断たれたのだ。

   ※  ※  ※   

(注)条約勧告適用専門家委員会

 ILOの常設機関で、約二十名の労働法の専門家で構成。条約や勧告が適正に履行されているかを判断し、意見を提出する。同委員会は,九七年に従軍慰安婦を二九号条約違反として被害者個人への国家補償を勧告する報告を出した。九九年には強制連行・強制労働も含めて二九号違反とする報告を出している。

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