2002年07月19日発行747号 ロゴ:なんでも診察室

【下痢のクスリは慎重に】

 突然、グルグル、ゴロゴロ、腹が痛くなり、下痢の前兆です。六月二十二日、フィリピン・デイケアーセンターで、健診を終え、「百五十人以上の子どもたちが検診を受けた。去年より三割増だ」「今年はたくさんの耳垢を取れた」などと気分良く会話をしていた時でした。「僕は不運だ。例年のようにとんぼ返りでは気の毒と、初めてマニラの外に連れて行ってくれる予定なのに。それどころかマニラ市内のひどい渋滞の車の中で我慢できるだろうか?」など考えながらトイレに駆け込みました。

 慣れないところを旅行すると、「旅行者下痢症」になることがあります。大腸菌などによるもので、ほぼ五日以内で治りますが、一割がそれ以上続きます。抗生物質を服用しなくても三日で五割の人が治り、服用すると八割が治ります。

 細菌感染による下痢はたくさんありますが、ほとんど抗生物質は効きません。確かに、赤痢にはよく効き、キャンピロバクターという菌にも多少効きます。しかし、サルモネラではかえって病気を長引かせます。O―157では溶血性尿毒症という怖い合併症を増やします。他の細菌性下痢のほとんどには効きません。これは、抗生物質が人間と共生して病原菌から人を守っている味方の大腸菌などを殺すからと考えられます。また、抗生物質乱用は病原菌に耐性を与え、本当に抗生物質が必要な小さい赤ちゃんや抵抗力の弱い人などに使っても効かなくすることがあります。当然ですが、下痢の大部分を占めるウイルス性のものでは副作用を出すだけです。

 ところで、下痢に欠かせないのは下痢止めだ、と思っておられる方は間違いです。多くの下痢止めの説明文には、細菌性下痢には原則禁忌と書かれています。特にO―157では溶血性尿毒症を引き起こし易くすると考えられます。下痢止めはウイルスや細菌、毒素を腸内に長く留めるため感染性の下痢には有害です。多くの場合、下痢も一種の防衛反応なのです。下痢止めは、試験やイベントで今日だけは下痢を減らしたい人への、危険性を秘めた慰め薬です。多くの医者は病原菌も考えないで抗生物質や下痢止めを出しますので要注意です。

 などと、トイレの中で考えたわけでありませんが、その時は、幸い軽い下痢だけでした。薬を飲むのをすっかり忘れていましたが、その夜に市内で食事をした上に、深夜に元米海軍基地のスービックのホテルに着き、ポールガラン氏や、年齢が僕の半分の仲間たちと夜中の浜辺でしこたまビールを飲みました。

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