2002年08月02日発行749号

占領下のパレスチナ(6)

イスラエル国内でも反戦集会 / 市民の力が世界を変える】

 米国の支援を受けるイスラエルはパレスチナに対する軍事支配・虐待を続けている。だが、シャロン政権の強硬路線に対し、イスラエル国内でも非難の声が拡大している。市民交流団(代表・伊藤成彦中央大学名誉教授ほか)はイスラエルの反戦集会に参加し、平和団体と交流した。和平への確かな基盤を感じた。(T)


首相公邸前で集会

シャロン公邸前を埋める
イスラエルの人々
(6月8日・エルサレム)
写真:プラカードなどを掲げた人びと

 六月八日、午後六時半。西エルサレムにあるシャロン首相公邸前で平和集会が開かれた。占領と占領に伴う犠牲に抗議する行動として取り組まれた。その犠牲はイスラエル・パレスチナ双方が強いられている。

 会場に続く歩道で、警察にパスポートの提示を求められた。イスラエルでは「二級市民」とされるパレスチナ人に政治活動の自由はない。こうした集会には参加できない。

 大型バスが続々と到着する。黒い服を着込んだ女性が多数降りてくる。平和団体「ウイミン・イン・ブラック」のメンバーだ。

 集会の主催者は「平和をめざす女性連合」。ウイミン・イン・ブラックや「平和を求める女性と母親たち」など、ユダヤ人とパレスチナ人による十の女性団体が結集している。

「占領をやめろ」

 「占領をやめろ」「敵となることを拒否する」などの横断幕・プラカードがある。黒いプラカードを掲げたゲイの団体がいる。ユダヤ教のもとでは迫害を受けるマイノリティーだ。戦争未亡人の横断幕もある。イスラエルの国旗を掲げる人がいた。集会を妨害しに来たわけではない。「イスラエルの国が好きだから占領に反対する」のだという。

ピース・ナウの
ノアン・モフシュテイトさん
写真:顔写真

 イスラエルの平和団体「ピース・ナウ」のノアン・モフシュテイトさんによれば、二年ほど前にイスラエルの平和陣営は弾圧を受け一時活動が停滞したが、運動は持ち直し、六万人規模の集会がもてるまでに回復した。

 イスラエルの平和勢力も右翼的傾向から左翼的なものまで、考え方の幅は広い。ピース・ナウは左翼でもないという人もいる。モフシュテイトさんは「運動を広めるために妥協することはある。それは表現上のことだ。人々を啓蒙し、平和の基準をより進歩的な考え方にすることが必要だ」という。

 「ピースナウは、貧困や人権侵害はあつかわない。平和の課題だけに絞っている。そのため比較的裕福な層が支持をしている。パレスチナ・イスラエル双方のテロをやめろ、戦争犯罪をやめろ、入植地から撤退せよ、は平和運動の共通の目標となっている。中心的なスローガンは、イスラエルのために占領地から撤退せよ」

 イスラエルの経済状態が、平和運動に影響を与えている。

 「九三年、オスロ合意後の和平の進展は、イスラエル経済にとっても好都合で五〜六%の成長率を達成した。第二次インティファーダ後はマイナスに転じている。海外からの投資は留保され、クレジット・ランクは下がった。戦費の出費もかさみ、国民は税の重みを感じている。企業倒産が予想される」

 イスラエルに対する経済制裁は大きな力になる。

集会には幅広い層が参加
写真:鉢巻をしタンクトップ姿の青年

 エルサレムの平和集会で、日本の市民交流団が紹介された。交流団を代表して日本パレスチナ医療協会の芝生瑞和さんが「車椅子二台と約三十人にのぼるメンバーが、歩いてグリーンラインを越え、ジェニン難民キャンプに入った」と報告した。集会参加者から盛んな拍手を浴びた。

交流団もアピール

 一段と大きな拍手がわき起こったのは、川部はるかさん(20)のスピーチだった。

 「わたしは一学生に過ぎないけれど、わたしたちのような普通の市民が一番強い力をもっている。その力が世界を変えて平和を生み出す。イスラエル人とパレスチナ人が平和に共存できると確信している。わたしたちの力を信じましょう。この状況を変えることができるし、世界を変えることができる」

 川部さんは大学二回生。中東学生会議のサークルに所属している。八月十三日から十七日まで、ガザでパレスチナの学生との交流会を持つ。日本から十人ほどの学生が現地に出かけ「戦争と平和」などのテーマで話し合う。エジプト・シリアでも開催する。

反戦集会でアピールする
市民交流団(左から芝生端和さん、
川辺はるかさん、新谷のり子さん)
(6月8日・エルサレム)
写真:壇上でアピールする三人の写真

 「不安もある。危険かも知れない。でも次につなぐためにあえて決行した」とサークル内での議論をふりかえる。「学生ができることには限りがある。でも何もやらないよりはまし。社会に植え付けられたくだらない価値観をぶち壊して、自分たちの目で真実を見たい。今やらなければいけないことは、理論を詰め込むことではなくて、肌で感じること。そしてそれを人に伝えること」。そんな決意を教えてくれた。

   *  *  *

 日本から四十人近い市民交流団がパレスチナを訪れた。わずか一週間という限られた時間と自治区の限られた空間を見聞きしたに過ぎない。五十年にわたる戦火と軍事支配のもとで暮らすパレスチナの人々の生活と心情は想像するには余りある。

 だが今なお、軍事力をふりかざし、占領支配を続ける姿にいいようのない怒りを感じる。人の命を理由もなく奪い、人間の尊厳を踏みにじる行為はイスラエルだけのことではない。

 この日本でも、在日外国人に対する人権侵害などが日常的に引き起こされている。そのうえ、有事法制は軍隊の狂気が社会全体を支配することを意味する。遠い国のことではない。占領をやめろ、あたりまえの平和とあたりまえの自由を求めるパレスチナの人々の叫びを、わがこととして叫ばねばと思う。  (終)

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