2002年08月16日発行751号 ロゴ:なんでも診察室

【肥満問題の真の解決】

 「太った」と大騒ぎをする娘に「おまえの年頃はぽっちゃりするのが当たり前」と言っても、「お父さんには女心がわからん」。「おまえに、薄くなった頭の男心がわかるのか」と反論してみてもしかたがありません。

 一九九八年国民栄養調査によれば痩せ願望は二十〜六十歳代女性の七〇〜八〇%に上っています。先の調査で、痩せたいという女性の半数以上が「きれいでありたいから」で、毛はえ薬を塗る人と目的は同じです。食事制限や運動は大変なので、安易な痩せ薬が流行っているようです。中国製やせ薬による事件はこの様な世相に対する強い警鐘です。厚生労働省の対応の遅れもあり、七月三十一日現在の厚生労働省調査では死者四名を含む五百六十七人が肝臓や甲状腺障害をおこしています。

 中国製以上に出回っている「西洋」痩せ薬があります。日本で唯一認可されているマジンドールは副作用が強くなく、三か月で平均四キログラム弱痩せますが、中止すると元に戻り、長く飲むと効かなくなります。フェンタミンというのもほぼ同様です。シブタラミンは六か月で平均五キロほど痩せますが、止めると二〜八割方戻ってしまい、頭痛などの副作用があります。オルリスタットというのは、一年間で平均三キロ半程減量できますが、心臓の事故が起こりやすく、脂肪の吸収を阻害するので、おならと共にお尻から油分がもれます。病気の予防効果が証明された痩せ薬はありません。痩せるが、ひどい副作用のために中止になったものにフェンフルラミンなどがあります。

 今回の被害は、これを改造したN‐ニトロソーフェンフルラミンが漢方に混入されていたからだと言われています。売っている業者が漢方薬に効果がないと考えているのでしょう。痩せ薬を始め、ほとんどの漢方薬は科学的な評価がされていません。また、漢方薬は成分の種類・量が不明で、どの成分が毒なのか特定しにくいものです。中国四千年の歴史がある漢方だから安心というのは、太平洋横断に、いかだは四千年?の歴史があるから一万トンの船より安心というようなものです。

 最後に、日本人が肥満に悩んでいる一方、発展途上国で飢餓が起こっていることを忘れてはなりません。フィリピン・マニラ・イーストリバーサイドの子どもたちの多くは、一日一回か二回の食事も満足にとれていませんでした。アフガニスタンの人たちはひどい飢餓にさらされています。肥満問題の真の解決は、彼らと食糧を分かち合える世界を作ることではないでしょうか。  (筆者は小児科医)

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