2002年10月25日発行760号

【戦争被害調査団アフガン現地同行記<4> 仕事がなく家も再建できない帰還難民 生活破壊を拡大した”なぶり殺し”攻撃】

 内戦中も米軍による空爆後も何度となくアフガニスタンの人々は難民化を余儀なくされてきた。そうしたアフガニスタンの民衆の今の暮らしに米軍の攻撃はどんな影響を与えたのかを見てみたい。(勝井)


 八月末にUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)が発表した資料によると、百四十四万人の難民がパキスタンからアフガニスタンに帰ったという。パキスタンは最大時で二百万人のアフガン難民がいたとされているから、約七割が帰還したことになる。

 にわかにはこの数字を信じるわけにはいかないが、夏場にかけて多くの難民が帰還したのは事実だ。

 四十度も四十五度にもなるパキスタンの夏の猛暑よりも高地にあるアフガンの方が涼しいことと、UNHCRが帰還促進のために帰還家族に三万ルピー(約六万円)の生活支援金を支給したことが主な要因だろう。

瓦礫の街に人声が

 私たちが出会った帰還難民も五月から六月にかけて帰還していた。

 首都カブールに入った私たちは早速、市内を案内してもらった。ガイドのシャフィーグさんも十五年前にパキスタンに避難し、四か月前に帰ってきたばかりだ。

行けども行けども破壊の跡が
続くカブール市南部
写真:骨組みだけになったレンガ造りの建物。周りは瓦礫ばかり

 カブール市内の中心には小さな山がそびえる。山の北側は官庁や各国大使館、バザールが並ぶ中心部だ。さほど大きな被害の跡は見当たらない。カブール川に沿って山の南側に入り込んだところ、様相は一変した。どこまで続くのかと思うほどの破壊の跡だ。崩壊した屋根や壁、瓦礫と化したレンガがそのまま残る。とくにカルテ・チャー(四番町)やカルテ・セー(三番町)はかつては文教地区で住宅地であったと思われる街並みが、行けども行けども崩れ落ちている。

 「米軍の爆撃によるものか」と問えば、「すでに内戦時代に破壊された」との返事。ときどき「この学校は今回の米軍の攻撃で破壊された」の説明もある。この地区は主にハザラ人が住んでいた。内戦はカブールの中心部は破壊せずに、ハザラ人が住んでいる地域を戦場にしたのだ。

 そんな瓦礫の街並みで人の声が聞こえた。近づくと、崩れた屋敷跡に十人ばかりの子どもたちの姿があった。親は働きに出て留守だったが、四か月前にペシャワ―ルから戻ってきたという。しかし驚いたことに、自宅に戻ったといっても瓦礫がそのままで修復せず、屋敷の片隅でのテント暮らしだった。井戸も土砂で埋まったまま。難民キャンプと変わらぬ生活だ。子どもたちの表情も友だちがまだ帰っていないからか、ちょっと寂しげだ。

せまる飢えの恐怖

 十月に入ってカブールの気温は一気に下がったと聞く。冬は零下十度にもなる。冬の寒さをテント地一枚でしのぐことは不可能だ。すでにパキスタンへの難民の逆流が始まっているという。しかし、国外に再び出るにしてもばく大なお金が必要なことは、三月の難民キャンプで聞いたことだ。

崩れ落ちた自宅に戻った子どもたちと前田 朗教授
写真:幼児からハイティーン位の子供たち10人に囲まれた前田教授。周りは瓦礫の山

 私たちが泊まったホテルでも断水・停電は日常のことで、いまだに電気がない地域もあるなど「ないないづくし」のアフガニスタンで、もっとも深刻なのは仕事がないことだ。アフガンの主要産業は農業と牧畜だ。その農業が爆撃や地雷による破壊と水不足で再開できない。

 仕事が見つからず家が再建できなければ、再び難民キャンプに戻らざるをえない。それも不可能な人々を待ち受けるのは厳寒期の飢えの恐怖だけだ。

 調査団の前田朗東京造形大学教授は、「次の第四次調査は年末から一月にかけての冬に実施します」と言明した。

イラク攻撃許すな

 今回アフガン現地に入ってはっきりと分かったことは、一年前の米軍のよる空爆前からすでにアフガンの大地は荒れ果て、街は廃墟と化し、人々の暮らしは疲弊していたことだ。

カブールに戻っても
テント暮らしの子ども
写真:テントを背に瓦礫に腰をおろす幼児

 そんな国の事情を知りながら、米軍は無慈悲な空爆を開始し、日本政府はその攻撃に加担した。米軍の空爆は、国土と人々の生活の破壊を拡大しただけだ。爆撃による直接の被害に加えて、難民生活の慢性化、飢餓の恐怖は去ることはなく高まるばかりだ。米軍の攻撃とは、アフガン民衆を”なぶり殺し”にする暴挙以外の何ものでもなかったのだ。

 日米両政府はいまだにアフガンでの攻撃を続けている。しかも、その攻撃をイラクにまで拡大しようとしている。イラクの民衆も、湾岸戦争と国連による経済制裁で疲弊した生活を余儀なくされている。劣化ウラン弾の後遺症は日を追うごとに拡大している。アフガン民衆と同様にイラクの民衆を”なぶり殺し”にする攻撃は絶対に止めなければならない。

       (終わり)

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