2002年11月08日発行762号 ロゴ:なんでも診察室

【温泉の効能】

 九月末、仙台市での日本靴医学会にパラマウントワーカーズコープのナースシューズの良さを発表しました。発表後、学会の「懇親会」に参加しました。旅館にご馳走が待っているのを知っていながら、つい競争のようにパクパク。染みついた貧乏性はなかなかとれません。

 腹一杯になって、仙台の奥座敷「作並温泉」に着きました。「うえっ」としながらも再びご馳走を食べ終え、入った温泉が最高でした。広瀬川源流横に作られた、雨に煙る露天風呂です。ここの効能は「神経痛・筋肉痛・冷え性…」。皆さんは信じますか。

 ところで、温泉に入ったら病気が良くなった、だから温泉が効いた、というのは間違いです。多くの病気は自然に良くなることがあります。患者を平等に二群に分けて温泉療法をした人としなかった人を比較しなければ効果は分かりません。日本ではその様な研究は見つけられませんでしたが、世界的には二十七の研究を見つけました。対象とする病気は、関節リウマチと変形性関節症が七、腰痛三、腱筋肉症三、アトピー性皮膚炎四、心臓病血管病六、婦人病二、不安症一、糖尿病一でした。方法は色々で、温泉に浸かったり、飲んだりしています。温泉の種類は死海の水が四、炭酸水三、ヨウ素塩二などです。私の予想と違い、そのほとんどが効いたと結論しています。

 しかし、この「効いた」は、痛みなどの症状が緩和したというもので、病気が治ったのではありません。また、これらの研究の質は少々低いようです。世界の研究を最も正確に評価するコクラン共同計画では、関節リウマチと変形性関節症に対する温泉の効果に関する研究は質が悪いので、効くというのは疑わしいとしています。他の効能もそれほど信頼できないかもしれません。

 その上、日本の多くの温泉には恐いことがあります。レジオネラという肺炎などを起こす細菌がうようよしていて、全国で多数の死者まで出しています。あまりの多発に、厚生労働省が二OOO年十二月に温泉の衛生管理要領等を改正しました。にもかかわらず、今年一月にオープンした宮崎県日向市第三セクターの温泉は、七月までに死者七人を出し、被害者千百七十三人に補償をしています。

 これらは主に、週に一度も湯を換えない「循環式」の温泉での事件です。多くの新しいホテルもこの方式のようです。豪華な設備と循環式風呂で少ない温泉をごまかす、ゼネコンや循環風呂製作企業の利益を優先させた温泉作りのため、日本の温泉文化が瀕死の状態です。

 とはいえ、ゆったりと温泉に入るのは、なんともいいものです。温泉に行く前に循環式かどうか確かめて、私が入ったようないいお湯に入ってください。

(筆者は、小児科医)

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