2003年01月03日発行770号

【国際市民調査団が見たイラク 米軍の戦争に憤る人々 イラク・ルポ 隠された戦争犯罪 なぜ攻撃されるの!】
地図

 湾岸戦争(一九九一年)で多大の被害を受けたイラク。その後十年にわたって経済制裁は続き、今また”なぶり殺し戦争”の矛先を突きつけられている。イラクの人々の暮らしはどうか。その実態を知リ、戦争をとめる力になろうと「イラク国際市民調査団」(団長…アラブイスラム文化協会代表ジャミーラ・高橋千代さん)の二十八人が、十二月十四日から二十二日にかけてイラクを訪れた。


 「ウウ〜ゥ。ウウ〜ゥ」

 どこからともなく、けたたましいサイレンの音が響いた。戦闘機の飛来を知らせる警報だと後になってわかった。

イラク・バスラにて
写真:にこやかに微笑むイラクの子どもたち

 市民調査団は十二月十七日、イラク南部にあるバスラ市にいた。人口百二十万人。首都バグダッドの五百万人、北部のモスル百五十万人に次ぐイラク第三の都市だ。

 前日訪れたサダム教育病院(バスラ市)で、十二月一日に米軍の空爆で負傷し入院中の青年と会った。数名の死亡者も出たと聞き、現場調査に出かけることになった。

住宅地に至近弾

 着弾地は、市の中心地から車で数分の距離にあった。幅四十メートル程もある幹線道路に面して、フェンスに囲まれた空き地が広がっている。石油会社の車庫・倉庫として使われていた。フェンス越しに、黒焦げになった車の残骸が数十メートル先に見えた。

 道路の反対側にはアパートがある。一階は商店になっていた。ガラスはほとんど割れていた。二十七人が負傷し、六人が死亡したという。

 「午前十一時ごろサイレンがなった。いつものことだから気にはしなかったけど、その日は、三十分後に戦闘機が飛んできた。本当に爆撃されてしまった」。当時の様子を高校生のガーイスくん(17)が話してくれた。

 一階で遊んでいたヤッセルハウズくん(5)は左手の指を切り落とされた。腹部には四センチ角ほどの金属片が突き刺さった。写真

 「アパートの隣にはペプシコーラの工場があった。九一年のときに爆撃にあっている。今また近くが狙われてしまった。ここは、全く市民しか住んでいないところだ。どこに軍事施設があるというのか」。受け入れ団体「友好と平和・連帯協会」のムハッマドさんも怒りを隠さない。

新婚二か月で

 近くに住む遺族の家に出向いた。着弾地から歩いても十五分ぐらいの距離だろうか。「息子は、二か月前に結婚したところだった。自動車整備工をしていた。その日は、帰宅の途中だった」。

 母親のナハラ・シャラーラさん(49)は突然の訪問に戸惑いながらも、その日の出来事を語ってくれた。「知らせを聞いて、通りへ飛び出した。どうしてよいかわからず、大声で叫んだ。腕や腹が切れていた。それが致命傷となった。今さら何を言っても息子は帰ってこない。私の人生を失ってしまった」

 亡くなったのはモハメッド・シャリフさん(23)。結婚式の時の写真を手にナハラさんはこらえきれず、声をあげて泣いた。「なぜ攻撃されなければならないのか。私たちが何をしたのか」。この問いは、心に重く残った。

 マスコミは、米軍の爆撃が何の罪もない人々を殺していることを伝えない。明らかに国際法違反の犯罪行為を糾弾しない。今では空爆があったことすら、報道されることはまれだ。

 北部のモスル市でも、昨年六月、子どもたちがサッカーで遊んでいた広場に爆弾が落とされた。多くの死傷者が出た。今回、遺族に面談した訪問団の一人は「誰も今まで取材にもこなかった」との声を聞いている。

国連決議違反

 イラクには「飛行禁止区域」がある。米国が一方的に宣言したもので、国連はおろか、他に誰も認知していない。九一年四月に北緯三六度以北を、九二年八月には三二度以南を(九六年に三三度に引き上げ)禁止区域とした。かろうじてバグダッドがはずされているが、実にイラク国土の三分の二にも制限が及ぶ。

 以来米英軍は、監視活動と称して自由にイラクの領空を侵犯し、なおかつ口実をつけては空爆を続けている。その数は、数百万回とも言われている。これはイラク・クウェート国境に非武装地帯を設けた国連決議に違反する行為でもある。国連決議違反の常習者は米英軍なのである。

 帰国後見た十二月十九日付けの新聞には「米軍は、イラク南部『飛行禁止区域』を偵察飛行中の米英両軍の戦闘機が、イラク軍が移動式のレーダー・システムを飛行禁止区域内に移したことに対応し、同国の対空防衛施設を爆撃した、と発表した 」(ロイター)とワシントンからの情報が掲載されていた。

 現地調査で知ったことから考えると、全く信用に値しない。仮に、”レーダーを移動した”として、なぜこれが空爆の理由となるのか。何の罪もない市民に対し、十年以上にわたり爆撃を加える。”なぶり殺し”と呼ぶ以外ない蛮行ではないか。米国はまだこの上に爆弾を降らせ、日本政府は、これに手を貸そうとしている。

 隠された戦争犯罪を暴き出すことで、戦争を止める力となりたい。母親の涙に応えたいと思う。病院や街で出会ったイラクの人々の声に応えたいと思う。     (T)

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