2003年01月17日発行771号 ロゴ:なんでも診察室

【劣化ウランの毒性】

 九一年の湾岸戦争以来イラクでは健康破壊が深刻化しており、劣化ウラン弾によるとみられる白血病や奇形児も増加しています。九九年のユニセフ調査では、五歳未満の死亡率は八四〜八九年の二倍以上に増加し、イラク南部のバスラ大学などの調査では、〇一年の十五歳未満ガン症例報告数は百件で九○年十九例の五倍になっている(12/31毎日)、とのことです。

 この極めて重要な問題が医学界ではどのように扱われているのでしょうか。世界の主要な医学雑誌を三千五百種類以上収録している「メドライン」では「劣化ウラン」に関して百十一の医学論文がありました。環境中に劣化ウランが残存していることは米軍の調査も含めて多数の論文が認めていますが、イラクの子どもたちの健康問題との関係を調べた論文はありませんでした。

 一方、イラクの子どもをテーマにした論文には、湾岸戦争以来の死亡率が、千人当り八十七(日本の二十倍)になった、八五年の三・二倍に増加した、などの論文がありました。しかし、子どもたちにガンや奇形が増加したというデータを示した論文は見つかりません。WHO(世界保健機関)は〇一年八月劣化ウランによる先天性異常、ガンや腎臓病の調査をするために、八人のスタッフをイラクに派遣しましたが、この結果は医学誌には発表されていません。

 これらのことは、病気の増加や劣化ウランの害を否定するものではありません。ベトナム戦争で、六一年から使われた「枯葉剤」中の大量のダイオキシンがベトナムや米軍の帰還兵の子どもたちに奇形を多発させ、大人にも多彩な病気をもたらしました。しかし、当時の医学研究は事実の究明よりもそれをごまかすために使われ、真実を伝えたのはベトナムからの断片的な報告やジャーナリストでした。

 今回も同じです。医学界で最も権威あるニューイングランド医学誌には、湾岸戦争帰還兵の子どもたちの先天性の異常率が高くない、という陸海軍の共同研究がありました。しかし、これは帰還兵の三割強にのぼる除隊者のデータを除外した上、この種の調査に不可欠な流産のデータもない致命的欠陥がありながら、堂々と掲載されたのです。

 大部分の医学論文が同じようなものですが、それらを良く読むと、害を否定する著者の「結論」とは別に、データそのものは、湾岸戦争帰還兵の四割以上に病的症状が見られる、いまだに尿に劣化ウランが排泄されている、発ガン性があるなどを示しています。

 罪もない人々の虐殺と環境汚染のイラク攻撃をなんとしても阻止しましょう。

    (筆者は、小児科医)

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