2003年01月17日発行771号

【イラク・ルポ / 隠された戦争犯罪 / <第2回>バクダッド市内でピース・パレード / サラーム(平和)の声を世界に】

 経済制裁・大量破壊兵器疑惑・「飛行禁止区域」への爆撃。イラクに対する挑発行為を繰り返す米国は、兵力を増強し、本格的な攻撃の準備を進めている。イラクを訪れた国際市民調査団(団長・ジャミーラ高橋さん)は、戦争を止める力になろうとバグダッドでピース・パレードを行い、平和・友好をアピールした。

繁華街で訴え

 「サラーム。サラーム。サラーム。ラ・アル・ハルブ(平和。平和。平和。戦争反対)」。市民調査団によるリズミカルなチャントが響く。

バグダット市民と一緒に平和を訴える日本からの市民調査団(12月19日)
写真:イラクの人々(少年から初老の男性まで)と日本からの参加者が笑顔で手を打ち鳴らしている

 十二月十九日。イスラムでは週末にあたる木曜日の午後三時、バグダッド市の中心地タハリール・スクウェア(革命広場)は大合唱に包まれた。市民調査団は、チグリス川のほとりにある国連事務所に対し経済制裁の停止を求める要請行動を終え、サドゥン・ストリートをパレードし、この広場に到着した。

 六車線道路の交差点がロータリーとなっているこの広場は、交通の中心であり、商店が建ち並ぶ繁華街でもある。通りかかった人や近くの商店からの人々が、市民調査団の一行を何重にも取り囲んだ。

 「平和がイラクの子どもを助ける」「経済制裁をやめろ」。市民調査団の英語のチャントに「俺たちの言いたいことだ。その通りだ」と集まった人たちは同意する。「サラーム。サラーム」と声を合わせる。調査団の横断幕は、いつの間にかイラクの人々が手にしていた。「イラクと日本 / 平和と友好(英語)」「イラクに平和を(アラビア語・日本語)」。

 パトカーが一台やってきた。警官は、制止もせず見守るばかりだ。この広場での集会は市民調査団としても、いわばハプニングだった。監視社会・管理社会といわれるイラク。首都の中心部で予定外の集会やデモが自由にできるとは思いもよらなかった。

 参加者はイラクの人々と交流できたことに満足した。

国際連帯を示す

 市民調査団は、十二月十二日、日本を発ってから丸二日かけてバグダッドに着いた。ヨルダンのアンマンからバグダッドに続く約千キロメートルの高速道路をバスで走った。湾岸戦争時、クウェート国境と同様ここも「死のハイウェー」と化した。ヨルダンへ避難する市民を載せた車を多国籍軍は狙い撃ちした。逃げ惑う人々にも機銃掃射を浴びせた。

 当時の残骸は現地にはない。ただ、破壊された橋はそのままだった。

 ホテルへ到着した十四日。現地で初めてのミーティングを持った。やっと調査日程が決まった。

 「イラクの現状を正しく伝えてほしい。それが最大の目的です」。団長のジャミーラ高橋さんが、訪問の目的を話した。

 市民調査団には、平和サークルの活動をしている高校生や大学生、保育士、看護師、イラストレーターや退職後NGOを立ち上げた人など、さまざまな人々が参加していた。

 「現実を見るだけではなく、何かがしたい」「抗議行動ならワシントンで。イラクでは平和と友好の気持ちを伝えたい」「米国やロシア・イタリアの団体も来るそうだから、声をかけよう」。

 イラクの人々に、敵意ではなく友好のメッセージを伝えたい。バクダッド一番の目抜き通りをパレードすれば、きっと現地の人も加わってくれる。実現すれば、国際連帯の大きな力を示すことができる。そんな願いが形になった。

 結局、日程が合わず参加できる他のグループはなかったが、市民調査団はピース・パレードを行った夜、米国の団体の取り組みに合流した。

米国の平和団体も

 バグダッド郊外、アル・タジ発電所。人々はキャンドルを手に集まった。市民生活の基盤である発電施設を破壊するなとアピールする取り組みだ。

 湾岸戦争(一九九一年)では、攻撃開始一時間でイラクの発電施設の八五%が破壊されたという。この発電所もタービン・プラントに爆撃を受けた。クラスター爆弾などで多くの死傷者が出た。電力の停止は、医療機器を使用不能にし、下水処理・浄水機能を麻痺させ、病気の蔓延に拍車をかけた。停戦後も長くイラクの人々を苦しめることになった。

 この日は、米国の平和団体「ボイシズ・イン・ザ・ウィルダネス(荒野の声)」の呼びかけに、イラクの市民も参加。五十人ほどが「この施設の爆撃は戦争犯罪」と書かれた横断幕を掲げ構内を静かに行進した。

イラク攻撃許すな

 世界各国から平和のメッセージを持った団体がイラクを訪れていることを知った。日本からも市民調査団とは別のグループがやってきていた。苦しい生活に耐えながら、明るく陽気に会話を求めてくるイラクの人々。「悪の枢軸」「独裁者フセイン」。そんな悪罵を投げつけようとも、この人々の生活を破壊していい理由は一切ない。

 一月十八日には、世界各地で「イラク攻撃反対」の声が響き渡る。市民調査団のピース・パレードやキャンドル集会は、ささやかな取り組みだったかもしれない。だが、こうした取り組みの一つ一つが、なぶり殺し戦争を仕掛ける米国や日本政府の手足を縛る力になる。      (T)

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