2003年01月17日発行771号

【民衆法廷第一回公聴会・証言者 伊藤成彦・中央大学名誉教授 国際民衆法廷運動に期待する ブッシュの「メガネ」を外そう】

 グローバル資本主義の戦争の実相を暴き、その国際法違反を裁く「アフガニスタン国際戦犯民衆法廷」に大きな注目が集まっている。第一回公聴会(12 / 15 、東京)で「9・11以降をどう見るか」と題して証言した伊藤成彦・中央大学名誉教授に、民衆法廷運動への期待を語っていただいた。(十二月二十五日談、編集部の責任でまとめました)

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 第一回公聴会は見事な成功だ、と言っていいでしょう。若い人がどれだけ関心を示してくれるか気にかけていたのですが、予想を上回る多くの若者の姿があった。朝鮮大学校の学生たちでしょうか、在日朝鮮人も参加していました。国際法廷と銘打っているのですから、民族・国籍を超えて開くことがとても大事です。よいスタートが切れました。

 9・11事件のあとブッシュ政権がやったことは、国際法上の手続きを一切省いたアフガニスタンへの無差別爆撃、「空からのジェノサイド(集団虐殺)」です。この明々白々たる戦争犯罪を裁く国際法廷がぜひともつくられるべきだと私も考えていました。

 問題は、誰がそれをやるか、です。ベトナム戦争の犯罪を裁いたラッセル法廷の当時と比べ、国際情勢はきわめて悪化しています。アメリカのやることにたてつくと「悪の枢軸」のレッテルをはられる。ブッシュ政権に対し道徳的批判を加えることのできる著名な知識人がほとんどいない。アメリカ本国では、ノーム・チョムスキーとエドワード・サイードぐらいでしょう。ヨーロッパには比較的ブッシュ批判はあるが、国際法廷を開くとなると簡単ではない。

ブッシュ批判を世界に

 しかし、誰かがやらなければなりません。でないと、ブッシュ政権は世界を支配して思うがまま、国境もなければ国際法もなく、やりたい放題になってしまう。規模の大小は問わず、ともかく法廷を開くことに意味があるのです。

 この法廷に法的執行力はありません。私は、一九八二年にレバノンのパレスチナ人難民キャンプ、サブラとシャティーラでイスラエルのシャロン国防相(現首相)がレバノン右派民兵を使って起こした大虐殺事件を裁く東京民衆法廷(八三年三月)に判事団の一員として加わりました。虐殺批判の国際世論を高めることはできましたが、もちろん実際にシャロンを逮捕できたわけではありません。

 大切なのは、ブッシュ政権の横暴に対する道徳的批判をきちんとすることです。むしろ執行力のないもののほうが道徳的な力は強いかもしれない。その批判がどれだけ世界に広がるか。メディアを通して、あるいはインターネットを通して、世界からどんな反応が得られるか。アフガン法廷は一つのテストケースになるのではないでしょうか。

日英は共犯者

 そのためには、もっと国際化することが必要です。日本政府はブッシュの共犯者ですが、共犯者はイギリスのブレア政権はじめ他にもたくさんいる。現在・未来の問題につなげるには、国際的な形で広げていかなくてはならない。私は前にドイツの大学で憲法九条の講義をしていたことがあるのですが、イラク戦争反対が強いドイツですから、この法廷への協力を得られる可能性も十分あると思います。

 私が今あちこちで強調しているのは、「ブッシュのメガネを外せ」ということです。例えば、北朝鮮問題。社民党や共産党まで「北朝鮮が枠組み合意を破った」と言う。破っているのはアメリカであって、ブッシュが合意をぶち壊し「悪の枢軸」には核先制攻撃をしかけると脅かすから、北朝鮮も対応せざるを得ないのです。あべこべです。全部ワシントンからの情報に頼っている。朝日新聞など最近とくにひどい。みんなブッシュのメガネをかけている。

 ブッシュにすれば、敵をつくっておかないと軍需産業がもたない。世界中に争いが必要なのです。ブッシュのメガネを外し、そのことを見抜かなくてはなりません。そのためにも国際民衆法廷の運動に大いに期待しています。

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《伊藤成彦(いとう なりひこ)さん》

 一九三一年石川県金沢市生まれ。東京大学文学部ドイツ文学科卒業。同大学院で国際関係論、社会運動・思想史専攻。現在、中央大学名誉教授。ローザ・ルクセンブルク国際協会代表。著書:『「近代文学派」論』(八木書店)『軍隊のない世界へ』(社会評論社)『物語 日本国憲法第九条』(影書房)ほか多数。訳書:ローザ・ルクセンブルク『ロシア革命論』(論創社)ほか。近著に『パレスチナに公正な平和を!』(御茶の水書房)。

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