阪神大震災から八年。震災直後、避難所暮らしの被災者の生活保護申請を拒否した神戸市の生活保護行政を批判したことで不当配転させられた神戸市職員・高橋秀典さんの配転撤回を求める裁判が二月五日、神戸地裁で開かれた。裁判所は行政訴訟では異例の「和解勧告」を出した。被災地から生活保護行政を変えていく大きな転機が生まれている。
二月五日の第七回口頭弁論では、高橋さん本人が証言に立った。
「ケースワーカーの仕事がしたくて神戸市に就職した」「十二年間ケースワーカーをしていて、ほんとうに生きがいを感じ天職だと思っていた」と述べた高橋さんは、改めて神戸市の生活保護行政を批判。
「福祉の現場に戻りたい」と訴える高橋秀典さん(2月5日・神戸)
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「避難所での生活保護の申請すら認めないのは、決してやってはならないこと」と福祉事務所職場の多数意見を形成するための組合活動としてチラシの作成や配布を行った高橋さんを、当局は民生局外へ不当配転した。「局外配転で『神戸の保護行政はおかしい』という現場の声を神戸市職労民生支部に反映させることができなくなった」と不利益処分であったことを明らかにした高橋さんは、「一日も早くケースワーカーに戻りたい。定年までケースワーカーを続けたい」の訴えで証言をしめくくった。
反対尋問や裁判官からの尋問も終えた法廷の終盤に、裁判長は「話し合いはできませんか」と切り出した。神戸市当局代理人は「当局は『考えていない』と聞いている」と述べたが、裁判長は「裁判所としては和解勧告をします」と宣告し、法廷は終了した。和解期日は三月十三日に設定された。
原告代理人の桜井健雄弁護士は「行政訴訟で和解勧告が出るのは異例のこと。高橋さんの配転が極めて異常であることを裁判所も認識していることの表れだと思われる。神戸市にすれば、予想もしなかったことで相当ショックなはずだ」と和解勧告の意味を語った。
三十三人の増員が必要
五日の夕方には、「被災地から生活保護行政を考える集会」が開かれた。呼びかけたのは「高橋さんの不当配転を撤回させる会」、神戸の野宿者を支援している「神戸の冬を支える会」、野宿者や外国人支援にとりくむ「神戸公務員ボランティア」の三団体。
集会では、「野宿者が増えているのは単に不況だからではない。不況の中で生活保護などのセイフティネットが機能せず、最低生活保障の役割を政策的に果たせていないから増えているのだ」などの報告とともに、神戸の福祉の現場の実態も明らかにされた。
「神戸市は、四十五歳以下の若年稼動年齢層には、九十日間就労指導してそれでも就労していなければ保護の廃止に結びつく指導マニュアルを作っている」「病気や休職が相次ぐケースワーカーはいやがられている仕事で、異動で出て行きたい人でいっぱい。現在でも三十三人の増員が必要。高橋さんをケースワーカーに戻せない理由はない」。
これらの実態に、「就労指導マニュアルは憲法違反ではないか。大きな原告団をつくって違憲訴訟も考えてみるべき」「神戸市に、和解に応じて高橋さんをケースワーカーに戻せという署名を現場から取り組みたい」の意見が出された。
集会をまとめた高橋さんは、「今日の集まりは、福祉の現場と地域の支援団体がいっしょになった初めての集まり。これからも内と外が力を合わせて、神戸市の生活保護切り捨てを許さない取り組みをすすめたい。一日も早く福祉の現場に戻りたい」と力強く決意を述べた。