ロゴ:童話作家のこぼればなしロゴ 2003年04月25日発行785号

<18>『ニホンミツバチの「知恵」』

 少年の頃、ハチに刺されたことがある。私を刺したミツバチは、針を私の腕に残したまま道端に落ちた。

 これ以上巣に近づくな!

 ミツバチは自らの死をもって私に忠告したのだ。少し痛い程度で何ともなかったが、もしもスズメバチに刺されていたなら、こんなわけにはいかない。一度刺すと死ぬミツバチと違って、何度でも執拗に針を刺し続けるスズメバチの猛毒で、アレルギー体質の私のからだは核分裂反応のような激しい反応を起してメルトダウン。瞬く間に命を落していただろう。

 死ぬなんてオーバーなと思っている方も多いと思うが、毎年、三十〜四十名がスズメバチの犠牲になっているのだ。

 そんな人間をも殺すスズメバチの脅威に、常にさらされているのが、他ならぬミツバチたちである。特にエサが少なくなる秋口からのスズメバチの「侵略」はすさまじい。数匹でミツバチの巣を襲い、殺したミツバチを肉団子にして持ちかえる。オオスズメバチに至ってはミツバチの巣を全滅させ、蛹や幼虫まで食い尽くすのだ。

 ふつう蜂蜜をとるために飼われているのはセイヨウミツバチだ。『蜂の群れに人間を見た男』(本田睨著・NHK出版)には、三万匹のセイヨウミツバチのコロニ―が、たった三十匹のオオスズメバチに襲われて、三時間の間に二万五千匹の働きバチが殺されたとあった。十四秒に一匹が殺されたことになるのだが、オオスズメバチ側の被害は二匹だった。

 ところが、この天敵のスズメバチをやっつけてしまうミツバチがいる。外国から導入されたセイヨウミツバチ(在来種の四倍も蜜をとる)との競争に負け、山間地に追いやられてしまった古来より日本に棲むニホンミツバチだ。

 スズメバチと一対一で勝負を挑み、ことごとく殺されるセイヨウミツバチとは違い、ニホンミツバチはスズメバチが巣に侵入してくると多勢でいっせいに取りつき、ヨイショ、ヨイショともみあって高熱(四七℃くらい)をつくりだしてスズメバチを熱殺する。彼らは、団結という「知恵」を持つミツバチなのだ。

 人でもハチでも、小さくて弱い者が強くて大きなものを打ち負かすには、やはり、団結しかないんだなぁ。

 近年、低糖度で独特の酸味を持つニホンミツバチの蜜が、良質な健康食品として注目されはじめた。「戦争病」に病む世界は、「日本ミツバチ」たちが護りとおしてきた「平和の蜜」に、必ずや再び注目の眼を向けることだろう。その日が来るまで、戦争を放棄しないと作れない「平和の蜜」を、「知恵」で守りぬかねば。

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