2003年06月13日発行792号

【歴史に汚点残す制裁解除決議 イラク侵略・占領を追認】

 国連安保理は五月二十二日、シリアが欠席する中、米英から提出されたイラク制裁解除決議を全会一致で採択した。この安保理決議は、イラク復興を名目にしているが、米英両国による国際法違反のイラク侵略戦争と占領を追認する誤った決議だ。国際的な民衆のネットワークで、ブッシュ・ブレアの戦争犯罪を徹底的に追及していかなくてはならない。

イラク人民の主権は無視

米英の占領統治を容認

 採択された決議は、その前文で「米国と英国が統一司令部(当局)の下で、該当する国際法に基づき占領国として有する特定の権威と責任・義務を認定。占領国以外の国は当局の下で活動する」と米英両国による統治(=不当占領)を認めている。

 本文では、(1)貿易・金融・経済関係をめぐるあらゆる禁止措置を解除する(ただし武器禁輸を除く)(2)イラク中央銀行の中にイラク開発基金を置き、その運用は当局が監督する(3)今後六か月の間に「石油と食糧の交換計画」(注)を終了する(4)「交換計画」の資金から十億ドル(約千百七十億円)を早急にイラク開発基金に送金する(5)イラクの石油・石油製品・天然ガスの輸出収益は開発基金に預けられる、などが定められた。

イラク民衆を威圧する侵略軍(=米軍)兵士
写真:戦闘服姿で自動小銃を構える兵士

 だが、どこにもイラク人民の主権・自決権に触れた個所はない。イラクの主人公たる民衆の意思はまったく無視されている。国連の役割についても、人道・復興支援活動の調整を行う特別代表を派遣するというだけで、米英の占領統治をなんら制約するものではない。

誇張されたイラクの脅威

 この安保理決議の根本的な問題点は、安保理内ですら支持を得られず孤立していた米英によるイラクへの先制攻撃(侵略戦争)を追認してしまったところにある。 

 決議採択の前夜、ロシア・ドイツとの共同記者会見に臨んだドビルパン仏外相は、「決議案は戦争を正当化するものではなく、未来に向けてのものだ」と釈明した。だが、決議は米英の統一司令部を占領当局として認知し、事後的に米英の侵略戦争にお墨付きを与えるものとなっている。だからこそ米国のネグロポンテ国連大使は、「イラクの人々と地域の将来にとって、歴史的な一ページだ」と勝ち誇って演説したのだ。

 そもそも、イラク攻撃の理由とされた大量破壊兵器はいまだに発見されていない。米国の宣伝がいかにでたらめであったかが証明されたことになる。だから米国内でも、「イラクの核やアルカイダの脅威は誇張されていたと思う」(民主党のバイデン前上院外交委員長)といった発言が出てきているのだ。

 米英両国によるイラク戦争は、攻撃を受けたわけでもない時点での先制攻撃であるという点でも、民間人への軍事攻撃という点でも、国際法に違反する侵略戦争に他ならない。その侵略戦争を追認した今回のイラク制裁解除決議は、歴史に汚点を残す誤った決議と言わざるを得ない。

分裂するグローバル陣営

安保理決議を隠れ蓑に

 米英両国が安保理決議を必要としたのは、あまりにも評判の悪い占領統治に「国連」による認知というオブラートをかぶせるためであり、また制裁決議をそのままにしては肝心の石油輸出もままならないからだ。

 戦争開始に反対したフランス・ロシア・中国などは、今回一転して制裁解除決議に賛成した。「イラク復興」の名の下に進められる石油増産と開発のお裾分けにあずかるためだ。ラムズフェルド米国防長官は、「戦争で血を流した国だけがすべての権益を得る」(5/23読売)と露骨に表明し、それらの国々を牽制していた。決議に反対して、自国企業がイラクの石油権益や復興ビジネスから排除されることを恐れたのだ。

 米英両国は今回の決議を「名分」に、イラクを実質統治し石油の生産と輸出・採掘契約・石油収入の使途などを管理する腹だ。

やっぱり石油のための戦争

 イラク戦争「終結」後の事態は、世界の反戦運動が掲げていた「ノー・ブラッド・フォー・オイル(石油のために血を流すな)」というスローガンの正しさを証明している。

 米軍は略奪を煽り立て混乱を意図的につくり出す一方で、石油省や油田だけはしっかり防衛した。またイラク石油省の顧問団トップにロイヤル・ダッチ・シェルの米法人(シェルUS)のキャロル元社長を据えた。

 米国の狙いは、サウジアラビアに次ぐ第二の埋蔵量を誇るイラクの石油を握り、OPEC(石油輸出国機構)の石油価格維持機能を破壊し、石油取引の主導権を国際石油資本(メジャー)の手に取り戻すことにある。

  *   *   *

 米英にイラク占領を認めた安保理決議に抗議して、五月二十七日にはバグダッドで数千人がデモ行進した。報道されただけでも七千人を超える民間人(その多くは子どもたち)の死亡が確認され(NGOイラク・ボディ・カウントの集計)、イラク民衆の侵略者・米英軍に対する怒りは高まっている。モスルやファルージャなどで起こった米軍への抗議デモがそのことを示している。

 全世界のイラク反戦行動がグローバル資本主義陣営に打ち込んだ楔はいまだ刺さったままだ。フランスのシラク大統領は自国でのエビアン・サミット(主要国首脳会議)を前に「勝ったからと言って正当化できるわけではない」(英紙フィナンシャル・タイムズ)と米国を批判し、ブッシュ米大統領は腹いせにサミットを途中退席することを決めた。安保理決議が採択された後も、グローバル資本主義陣営の分裂は修復されていない。

 反戦行動の成果に自信を持ち、さらに米英軍のイラクからの即時撤退・戦争犠牲者への補償を米英両国に押しつけていかなければならない。またメジャーによる石油の横取りとそれを利用したボロ儲けを許してはならない。

 世界の反戦運動と連帯し、ブッシュとブレアの戦争犯罪を徹底的に追及し戦争マシーンを止めよう。

(注)石油と食糧の交換計画

 イラクは九〇年八月のクウェート侵攻後に課された経済制裁によって石油の輸出を禁止されているが、食糧や医療品などの購入資金を得る場合に限って石油の輸出を認める措置。輸出で得られた代金は国連が管理し、必要に応じて支出される。

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