ロゴ:国際法を市民の手に 前田朗 2003年07月18日発行797号

第12回『人権委員会におけるNGO(2)』

 国連人権委員会59会期における日本関連NGOの主たる関心は、日本軍性奴隷制問題、つまり日本軍「慰安婦」問題である。

 「日本関連NGO」という奇妙な言葉を使ったのは、第1に、国際機関においては、通常は特定の国家や地域を代表するのではなく、政府にしてもNGOにしても、国際社会の共通関心事項である国際人権について関心を寄せているからである。第2に、日本軍性奴隷制問題の場合には、朝鮮半島、中国、台湾、フィリピン、インドネシア、マレーシア、東ティモールなど各地に被害者がいるので、特定地域の問題ではないからである。

 国連人権機関で日本軍性奴隷制問題の解決を訴えてきたNGOは実に多数ある。すぐに思い出しただけでも、IED(国際教育開発)、IFOR(国際友和会)、ICJ(国際法律家委員会)、リベレーション、IMADR(反差別国際運動)、WCC(世界キリスト教協議会)、IADL(国際民主法律家協会)、法・開発・女性アジア協会、AWHRC(アジア女性人権評議会)、JFOR(日本友和会)、韓国女性団体連合、全中国女性連盟、リラ・ピリピーナなどである。

 国連人権委員会59会期においても、日本軍性奴隷制をめぐる発言が相次いだ。そのパワーを与えてくれたのは、ラディカ・クマラスワミ「女性に対する暴力」特別報告者の報告書である。

 スリランカの弁護士であるクマラスワミ報告者は、1994年の人権委員会で「女性に対する暴力」特別報告者に任命されて、その調査活動を始めた。1995年の人権委員会に提出した予備報告書において、日本軍性奴隷制について数ページを費やして被害者の要求を明示した。そこで、NGOはクマラスワミ報告書を歓迎し、クマラスワミ報告者が日本等へ訪問調査することになった。その調査は、1995年5月の日本と韓国への訪問調査として実現した。また、クマラスワミ報告者の秘書が朝鮮にも出かけて資料を収集してきた。

 1996年の国連人権委員会52会期のクマラスワミ「女性に対する暴力」報告書は、人権委員会の話題をさらうことになった。1996年クマラスワミ報告書は、世界の女性運動の高まりを受けて、国連人権委員会に女性の権利への関心をきちんと持たせるための一里塚であった。同時にクマラスワミ報告者は、日本・韓国への調査訪問をもとにした「日本軍慰安婦報告書」を提出した。この報告書は、被害者、日本・韓国・朝鮮政府、歴史研究者、国際法研究者などの証言を踏まえて、事実を認定し、法廷検討を施し、日本政府に当時の国際法に違反した法的責任があることを鮮やかに提示した。そして、日本政府に法的責任を認めること、被害者に謝罪すること、補償すること、再発予防のために歴史教育で教えること、犯罪者を裁判にかけることなどを勧告した。

 1998年クマラスワミ報告書も、日本政府が法的責任を果たさずに、アジア女性基金で「道義的責任」を唱えていることを指摘している。2001年クマラスワミ報告書は、2000年12月にNGOによる「女性国際戦犯法廷」が開催されたことを確認している。

 そして、2003年クマラスワミ報告書は、日本政府が「戦時性暴力は戦争犯罪でも人道に対する罪でもない」という驚くべき主張をしていることを指摘している。

 クマラスワミ報告書は、人権委員会におけるNGO活動の意義を鮮烈に印象づける。「女性に対する暴力」特別報告者制度を設置すること自体、1993年のウィーン世界人権会議でのNGOのロビー活動による。NGOは長年にわたって、クマラスワミ報告者に情報提供してきた。1995年のクマラスワミ報告者の日本と韓国への調査訪問も、NGOの強い要請に応えたものであった。そして、クマラスワミ報告書はNGO活動を飛躍的に発展させることになった。

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