ロゴ:国際法を市民の手に 前田朗 2003年08月15日発行801号

第16回『人権委員会におけるNGO(6)』

 以上見てきたように、国連経済社会理事会との協議資格を認められたNGOは、国連人権委員会に参加して活動することができる。その概要をまとめておこう。

 第1に、NGOは人権委員会の会期に参加することができる。人権委員会は最近は毎年3月から4月にかけて6週間の会期で、ジュネーヴのパレ・デ・ナシオン(国連欧州本部)で開催される。NGO責任者が署名した登録用紙を人権委員会事務局に送付して、登録手続きを行えば、会期中にパレ・デ・ナシオンに入場できる。人権委員会会場はもとより、国連図書館なども利用できる。国連図書館にはコンピュータが設置され、インターネットに接続しているので、資料収集やメールによる情報交換にも使える。

 第2に、NGOは人権委員会文書を無料で入手できる。人権委員会会期中に各議題毎に配布される報告書や、決議案などは文書カウンターで入手できる。今では人権高等弁務官事務所のウエッブサイトに掲載されているので、世界のどこでも入手できるが、以前は人権委員会に参加していないと入手するのに数週間かかっていた。

 第3に、NGOは人権委員会で発言できる。人権委員会は国連加盟国から選挙された53カ国が委員であるが、委員以外の政府もオブザーバーとして参加して発言することができる。同様に、世界保健機関や国際労働機関などの国際機関代表も発言できる。そして、NGOの発言を認められる。発言時間は僅か5分とか、時には3分しかなかったりするが、貴重な機会である。先に紹介した日本軍性奴隷制問題では、日本国内ではNGOの発言はほとんど相手にされないが、人権委員会に行けば世界各国政府がそろっている場で日本政府の責任追及の発言ができるのだ。発言は、国連の非公式のプレスリリースに概要が掲載されるほか、発言したこと自体は正式記録にも残される。オブザーバーには決議案を提出したり、決議の投票に加わることは勿論認められていないが、決議案について意見表明することができる。

 第4に、NGOは人権委員会会場付近の会議室でNGOフォーラムなどの会合を開いたり、喫茶室で各国政府や人権活動家にロビーすることもできる。女性や子どもの権利をめぐるフォーラム、ビルマ(ミャンマ)、インドネシア、イラクなどの地域・国別テーマのフォーラム、強制失踪、拷問、難民などのフォーラムなど連日のように開催される。参加も自由である。

 第5に、NGOは事前に準備すれば、文書提出を認められている。人権委員会開始以前に、重要と考える人権問題について報告書を作成して事務局に送付して受理されれば、その文書は国連マークつきでNGO文書として人権委員会参加者に配布される。

 こうしたロビー活動を通じて、NGOは人権委員会の審議、政策決定に様々の形で関与できる。人権委員会の主要な仕事はもともと人権に関する国際基準の設定であり、国際人権規約や各種の人権宣言や条約などの人権文書を作成してきた。そうした文書の作成過程でNGOが情報提供し、様々の提案をすることができたし、多くの成果をあげてきた。拷問等禁止条約や死刑廃止条約のように、NGOが主導して、人権委員会の政府を動かして条約を獲得した例もある。日本軍性奴隷制に関する人権委員会の特別報告者やその報告書をめぐる決議も重要な事例である。

 

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