ロゴ:国際法を市民の手に 前田朗 2003年08月29日発行802号

第17回『人権促進保護小委員会におけるNGO(1)』

P> 前回まで紹介してきた人権委員会は、国連憲章に基づいて経済社会理事会の委員会として設置された委員会で、現在は国連加盟国のうち53か国の政府が委員となっている。

 その人権委員会の下部機関として設置された専門家による委員会が、人権促進保護小委員会(以下「小委員会」)である。かつては「少数者保護差別防止小委員会」という名称であったが、現在は人権促進保護の全体を扱うことになっている。政府が推薦した候補者のなかから、人権委員会における選挙によって26人の専門委員が選出される。専門委員は、政府から推薦を受けるが、政府からは独立した専門家として職務を遂行するものとされている。小委員会は、国際人権基準の発展のために、国際的な人権状況に関する情報を収集し、国際人権文書の適用状況を審議し、新しい国際人権文書を策定して人権委員会にさまざまの勧告を行ってきた。

 人権委員会が政府による構成であり、審議もしばしば政治的になり、外交の場として機能しているのに対して、小委員会は専門委員による理論的な検討にウエイトを置いてきた。専門委員が自国政府から独立した立場に立つとされるのもそのためである。

 もっとも、小委員会は、世界中の人権侵害事例の報告を受けてきたので、NGOにとっては一種の駆込み寺のような役割を期待されてきた。

 かつては、人権委員会や小委員会では、特定の国家を名指しで批判することはできなかったが、1970年代から、そうした規制は弱まり、多くの人権侵害事例が続々と報告され、重大人権侵害事例の続く国家を非難する決議も出されるようになってきた。小委員会に結集するNGOは、次々と緊急の事例を報告し、小委員会の対処を要望してきた。

 しかし、人権小委員会も主権国家で構成された国連の機関であるから、名指しされ批判される政府側からの反発を受けて、人権委員会の決定によって、2001年からは「小委員会は特定国を非難する決議はできない」ことになった。このため、駆込み寺としての性格はやや弱まって、元の理論的研究に重心移動しつつあるように見えるが、それでもNGOは次々と具体的事例を報告しているし、専門委員も具体的な情報に基づいて審議を行っている。

 小委員会は長年、7月末から8月後半の夏休みに開催されてきた。かつては四週間の日程だったが、2001年から3週間に変更となった。最近は市民的権利、社会的権利、差別問題、司法と民主主義、女性の権利、テロリズムなどの議題を議題としている。

 また、小委員会の下に、作業部会が置かれている。専門委員が5人で1つの作業部会をつくり、小委員会以前に、少人数で審議を行い、その報告書を小委員会に提出する。小委員会では、作業部会報告書の成果をもとに、さらに議論を深める。作業部会には変遷があるが、契約奴隷制作業部会、先住民作業部会、少数者作業部会、司法と民主主義作業部会などが設置されてきた。作業部会は5月から6月にかけて行われることが多いが、小委員会の会期中に平行して開かれることもある。

 5月から6月にかけての作業部会、その報告を受ける夏の小委員会、そしてその報告を受ける翌年3月から4月の人権委員会という順で、徐々に上がっていくことになる。

 もっとも、小委員会の開催から人権委員会の開催まで日程の開きがあるので、小委員会開催の時期の見直しを求める声が出ている。

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