ロゴ:国際法を市民の手に 前田朗 2003年10月03日発行807号

第21回『人権促進保護小委員会におけるNGO(5)』

 2003年の人権促進保護小委員会(以下「人権小委員会」)は、戦時組織的強姦・性奴隷制などの性暴力問題に関連して重要な3つの決議を採択した。

 8月13日に採択された決議案34(決定108)は、1998年のゲイ・マクドウーガル「武力紛争時における組織的強姦・性奴隷制・奴隷類似慣行に関する報告書」のフォローアップとして、フランソワ・ハンプソン委員に、武力紛争の中で発生する重大性暴力行為や、民間住民に対して向けられた広範または系統的な攻撃の一部として発生する重大性暴力行為の犯罪化・捜査・訴追に関するワーキング・ペーパーを2004年の人権小委員会・法執行作業部会に提出するよう要請した。

 ハンプソン委員はエセックス大学の国際法学者で、1999年には「戦時性奴隷制被害者の補償要求は、時効にはかからないし、国家間の条約で消すことはできない。人権高等弁務官事務所がこの問題の報告書を出すように」という重要な決議案を提案した委員である。戦時性暴力が時効だという主張をしていたのは日本政府である。サンフランシスコ条約や日韓条約で被害者の権利が消滅したと主張していたのも日本政府である。

 同日、人権小委員会は決議案31(決定107)を採択した。決定は、ラコトアリソア委員に、性暴力犯罪に関して犯行者を有罪としたり責任を問うことを困難にしている事情に関する調査のワーキング・ペーパーを2004年の人権小委員会・法執行作業部会に提出するよう要請した。

 8月14日に採択された決議案15(決議26)は、2002年の「女性と少女に対する武力紛争の影響等に関する国連事務総局報告書」を留意し、2003年の「組織的強姦・性奴隷制・奴隷類似慣行に関する人権高等弁務官事務所報告書」を留意し、組織的強姦が社会を破壊し紛争後の再建を困難にしていることに関心をもち、旧ユーゴスラヴィア国際法廷やルワンダ国際法廷の判決が、強姦や性奴隷制が人道に対する罪であると認定したことや、国際刑事裁判所規程が性暴力を人道に対する罪や戦争犯罪としたことを歓迎し、各国に武力紛争時に行われた性暴力に関する不処罰の循環を終わらせるために実効的な刑事処罰と補償を行うよう繰り返し、性奴隷制等に関する人権教育を促進し教育課程における歴史の事実の記述を正確にして再発防止に努めるよう促し、人権高等弁務官事務所が2004年にも同じ報告書を提出するよう呼びかけ、2004年の人権小委員会でもこの議論を継続することを決定した。

 以上の決議を、最近の人権小委員会の流れとNGOの役割という観点から整理すると次のようなことが言える。

 第1に、議論の継続として、決議案15は、武力紛争における性奴隷制問題に関する研究の進展に焦点をあてて、個人の被害と社会の破壊の厳しさが再建を困難にすることにも及び、さらに前進するために研究の継続を要請している。

 この研究はこれまで10年間、奴隷制の現代的諸形態に関する作業部会で継続し、同種の決議が繰り返されてきた。テオ・ファン・ボーベン報告書、リンダ・チャベス報告書、ゲイ・マクドウーガル報告書という成果を生み出してきた。ところが、10年も継続すると、やはり新しい論点を登記することが困難になってきたこと、そして、人権小委員会の一部には日本軍性奴隷制問題を取り上げることに猛反発する特異な委員がいることから、委員とNGOとの間で協議が行われた。その結果、決議案15は前年と同様の内容とし、そこに新しい要素を追加するのではなく、法執行作業部会に舞台を移す工夫が試みられた。そこで、NGO発言も、議題2(重大人権侵害)や議題6(女性の権利)だけではなく、議題3(市民的自由、特に法執行)の下で問題解決を求めることになった。

 そこで、第2に、決議案34は、ハンプソン委員にワーキング・ペーパーを法執行作業部会に提出するよう要請している。

 日本軍性奴隷制問題は、当初は真相解明、被害事実の立証、国際法の解釈をめぐって研究が進められた。そして、日本政府の法的責任、謝罪と補償の必要性が指摘された。さらに、歴史教育や人権教育の重要性が指摘され、責任者処罰が掲げられた。マクドウーガル特別報告者のスローガンは「不処罰の循環を終わらせる」であった。しかし、日本政府はこれらの責任を果たしていない。そこで、NGOは「女性国際戦犯法廷」を実現した。次の課題は、不処罰の循環を終わらせるためにも不処罰のメカニズムを解明すること、克服するべき課題をクリアカットに提示することである。ハンプソン委員やラコトアリソア委員の研究が議論の次の地平を切り開くことを期待しつつ、NGOも次の目標に向けてスタートを切った。

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