2003年10月03日発行807号 ロゴ:なんでも診察室

【ガンの早期発見は有害?】

 自然に治ってしまうガンを、「ガンもどき」と言ったのは慶大放射線科の近藤誠氏でした。彼は、ガン検診で早期発見されることで、かえって健康が害されることがあると、検診に疑問を呈したのでした。

 ところで、小児ガンの約二割を占め、白血病に続き二番目に多いのが神経芽細胞腫です。このガンが出す物質の代謝物を尿で検査して早期に発見できることがわかり、日本では「世界に先駆けて」一九八五年一月より全国の六か月の乳児を対象にスクリーニング検査が始まりました。検査は全乳児の八五%、今でも年間約百万人が受けています。この検査により発見率は、二倍以上になりました。発見された患者は精密検査、手術や薬物療法を受け、治癒率は二倍になりました。医者は感謝され、行政も成績を上げ、万歳!万歳!のはずでした。

 十八年後の今年七月三十日、厚生省検討会は年九億円をかけたこのスクリーニング検査が「無効・有害」だったとしたのです。実はこの検査、当初から本当に死亡率を低下させるかどうかは不明でした。欧米諸国ではこの検査を導入する前に、厳密な研究結果を待ちました。一九九六年、カナダ・ケベック州での四十七万人の乳児を対象とした調査結果が発表され、人口当たりの発見率は増加するが、かんじんの死亡率は減少しないことがわかりました。「ガンもどき」をたくさん発見して、自然治癒するはずのその「ガンもどき」を治療して、治癒率を二倍にしたと医師や行政が喜んでいただけで、本物の「ガン」は早期発見でも治癒率を向上できなかったわけです。昨年四月にはカナダのさらに詳しい結果と、ドイツのこれまた厳密な調査結果が発表され、この検診の有害性が確認されました。これらを背景に、大阪府成人病センターの大島明氏らの批判も強化されました。ここにいたって、この検査の中止を拒んできた厚生省も、とうとう無効・有害性を認めたのです。

 病気の早期発見と、それが寿命や健康状態を良くするかどうかは別問題です。早期発見されたことで、かえって検査や治療による障害が増すかもしれません。医療関連大企業のバックアップによる「先端技術」を駆使したと宣伝される、前立腺ガン・肺ガン・胃ガンなどの検診や、脳ドックなどによる病気の早期発見は本当の意義が確かめられているわけでありません。神経芽細胞腫と同様に無効・有害かも知れないのです。発見率ではなく、人口当たりの死亡率の減少など、本当の目的が達成されているかを知ってから受けるべきでしょう。(筆者は、小児科医)

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