2003年10月24日発行810号

占領下のイラク 今も続く戦争犯罪(4)

【世界がブッシュを罰することを】

 イラクでは、半年にわたる軍事占領の下で、千五百人以上の一般市民が殺されている。占領軍の暴虐ぶりに、反米感情はすみずみに広がっている。八月七日、三家族六人が相次いで殺された。その犠牲者の一人、サイーフ・ラワッド・アザウィ(21)さんの家を訪ねた。父親ラワッド・アリ・サイド・アザウィさん(51)は無念の言葉とともに「われわれは米軍をイラクから追い出すだろう」ときっぱりと語った。(豊田 護)


★息子は車ごと焼かれた

 「真実を追い求め、人間性を追求するためにおいでくださり、家族・一族を代表して感謝の言葉を申しあげる。私はアブ・アワドの一族で、アブ・ハメッドというグループのチーフでもある」

息子を米軍に殺害された父親のラワッドさん
息子を殺害され無念の表情のラワッドさん

 ラワッドさんは、突然の訪問にも正装に着替え、丁重に迎えてくれた。アザウィ家は五百年続く旧家だ。百三十年前、オスマン帝国の支配から離脱するグルジアから、バグダッドに移り住んだという。通された居間の壁には、代々受け継がれてきた剣と、歴代当主の写真が飾ってあった。

 「われわれは、長い歴史のある文明を持つ国だ。預言者によって導かれたアラブの国、イスラムの国だ。しかし、経済制裁によって状況は悪化し、飢えにさらされ、不健康をおしつけられてしまった。米政府が人間性を持っているのなら、イラクを助けるべきなのに、実際に起こったことはテロであり、軍事行動だった。この戦争には理由がない。イラクの多くの民間人が傷つき、殺されただけだ」

 ラワッドさんは、真っ先に米英軍による侵略を批判した。心臓病を患っているという。語り口は物静かだ。

奪われた家族の幸福

 「最後のお祈りの時間だった」。事件当日のことに話は移った。敬虔なムスリムであるラワッドさんは、午後九時過ぎ、一日の最後の祈りをあげるために近くのモスクにいた。

サイーフさんが乗っていた車
(9月21日・バグダッド)
焼けただれた車

 「長男サイーフはその日、試験でいい成績をとり学位を得た。友達と車で出かけ、家に帰る途中、同じ道に米軍がいた。米兵は、なにも告げず銃撃を始めた。息子は車ごと焼かれ、遺体も放置された。同乗していた友達二人は米軍につれ去られた」

 住宅街の路上で、カワズ一家の乗った車を襲い、六人中四人を射殺した米第一装甲師団は、その直後、サイーフさんの車に攻撃を仕掛けた。車は炎上し、サイーフさんは車中で焼け死んだ。自宅まで二、三分のところだった。

 「イスラム法では、他の宗教、とくに侵略者によって殺された人は殉教者となり、天国に行くとされている。彼は私よりもいいことをした。われわれ家族は、彼が殉教者となったことを喜ぶ」

 父親の言葉に悔しさがにじむ。「息子が学位をとったその日に、米軍は息子の成功と幸福を奪った。私の家族を殺した…」。続けた言葉が途切れた。目頭を抑え、こみ上げる涙をこらえる姿に、居たたまれない気持ちになる。母親は、結婚に備え部屋の準備もしていたという。この家族を襲った悲劇の重さを感じずにはいられない。

殺害された現場
殺害された住宅街の現場

必ず占領軍を追い出す

 ラワッドさんは、裁判所に出向いた。だが、裁判所は「ブレマー(占領当局行政官)はイラク人が米国人に法の裁きを受けさせることを許さない」と相手にしなかった。

 「イラクを『解放』したというが、世界は答えてほしい。一体誰を解放したのか。われわれが彼らを占領していたとでも言うのか。旧政権が間違いを犯したのなら、それを正すのはわれわれイラク国民であり、同じアラブの社会だ。彼らは解放などしていない。われわれの尊厳、歴史・文明を破壊した。あらゆるものを奪った。イラク人はすべて、そう考えている」

 キリスト教徒もクルド人やトルコ人もみんな家族のような関係だ。対立は米国によってつくられた。シーアもスンニもない。イラク人民は一つと息子に教えてきたと語る。

 イラク民衆法廷の取り組みを話した。「とても重要なことだ。日本と世界の人々に、米政権と占領軍が国全体を破壊したことを目に見えるようにしてほしい。ブッシュは民衆を欺いている。民衆には目・口・耳がある。見て聞いて分析することができる。人々がブッシュを罰することができるよう期待する」。

 イラク人は日本人に愛情を感じている。いつも長崎・広島の出来事を覚えていると語るラワッドさん。米政府のイラク侵略に対して日本政府も日本国民と同じように、反対の姿勢を示せたはずだと言う。「イラク人の九〇%は、心で、手で、戦車で米軍と闘っている。われわれは彼らをきっとイラクから追い出して見せる。アラブの人々、イスラムの人々、そして世界の人々は神の助けにより真実を突きつけるだろう」

 ラワッドさんの言葉は、そのまま占領軍の一部をになう自衛隊に対して向けられたものだ。同じアジア人としての義務だともいわれた。占領をやめろ。アラブ社会の信頼を裏切らないためにも、自衛隊を行かせてはならない。            (続く)

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