2003年11月14日発行813号

今も続く戦争犯罪―占領下のイラク 第7回

【主権の回復なくして人権の保障なし / 「わが家にいながら囚われの人」】

 赤十字国際委員会への爆弾攻撃など、「治安の悪化」を理由に国連など外国人職員がイラクから相次いで退去している。だが「治安の悪化」をもたらしているのは占領軍の存在だ。人権侵害を繰り返す米英軍に対する民衆の怒りは、占領状態を補完する者にも向けられている。「自由」「解放」とはほど遠い日常生活を過ごす人々の声を聞いた。


米軍による略奪

「米軍に金品を略奪された」と語るグダイブさん(9月19日・バグダッド)
写真:いすに腰掛け身振り手振りを交えて語るめがねをかけた老人

 「私たちは、我が家にいながら”囚われの人”になっている」。街に出れば、いつ米軍のパトロールに出会うかもしれない。わけもわからず銃撃されたり、拘留されるかもしれない。バグダッドで活動する占領監視センターのボランティア・スタッフの一人、ガズワンさん(60)は、怒りを込めてそう言った。

 「われわれに許されている自由は、ほんの口先だけにしかない。ちょっとしたおしゃべりができるに過ぎない。解放されたって? 以前は夜遅くにも家族で食事に出かけられた。今では、笑顔さえ強制されているのさ」。こんな言葉が、切れ目なく続いた。

 軍隊という暴力が支配する社会。常に緊張を強いられる生活。自分の家にいても自由を感じることはない。占領下であることがいかに人々の生活を圧迫していることか。いつも明るく、冗談を飛ばしているガズワンさんの口調は厳しかった。

 自宅にいても安心はできない。バグダッドのカドゥハム地区に住むグダイブ・グバシさん(69)の家には、何度も米軍が押し入ってきた。

 「七月十九日には、銃撃事件の捜査だといってやってきた。すべての部屋を荒らし回った。ベッドシーツをはがし、戸棚や小さなバッグさえ開けた」。本・衣服・キッチンナイフ、そしてパスポートや身分証明書など手当たり次第、米軍は持ち去った。二万五千ディナール(約千五百円)の金まで奪っていった。

住民を威圧する占領軍
写真:丸腰の市民を自動小銃と防弾チョッキで身を固めた兵士がにらみつけている

 「返してくれるよう、交通費を使って米軍施設を訪ね歩いた。あちこちたらい回しになったあげく、おまえと話をする者はいない、帰れと追い返された」

 なぜこんな仕打ちを受けるのか。グダイブさんにはわからない。

 米軍が襲われたり、国連や赤十字の事務所に爆弾が仕掛けられたりすると「治安の回復を」との声があがる。占領軍に取り締まりの強化を求める論調が強まる。だが、イラクの民衆は、占領軍の存在こそが治安悪化の原因であることを知っている。

 「米軍はどの家にも入れるマスターキーを持っている。ドアを蹴破ればいいのさ」。ガズワンさんの言葉は冗談ではなかった。

抵抗闘争への支持

 米政府は、頻発する爆破事件について、旧サダム政権信奉者など限られた勢力で、占領政策の成功に対する焦りがテロリストの自暴自棄を生んでいると表明した。ブッシュ大統領は「(日常生活の復興と自由な社会の建設など)われわれが成功を収めるとこうした殺人者が反応するのだ」と強がって見せた。

 事実は全く逆だ。最近の調査では、米軍を占領者とする人々が、旧サダム体制を支えてきた地域よりも、シーア派住民やクルド人の多い都市で増えているという。

 「当初は単発的で非組織的な抵抗運動も数か月の間に大きく進展した」とガズワンさんは語る。「レジスタンスは民衆の支持を得ている。米軍は実行者を捕らえることがますます難しくなってきている」

 一般の市民を巻き込む爆弾攻撃に賛同するわけにはいかない。しかし、自らの手で国を作り直せる道筋も示されないまま、占領状態の中で進行する人権侵害・生活破壊に黙って耐えて続けることなどできるわけがない。そんな人々の気持ちは痛いほどわかる。

 「占領によって侵害されているのは、人権だけでなく全般的な経済的・政治的権利、すなわち主権だ。普通の人々の人権は、主権があってはじめて保障される」

 占領監視センター共同代表エマンさんの言葉は、一刻も早く軍事占領をやめさせることがイラクの人々の願いであることを教えている。(続く)

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