2003年11月21日発行814号

今も続く戦争犯罪―占領下のイラク 第8回

【がれきの中で暮らす人々 / 身体をむしばむ核物質】

 米議会は十一月七日、小型核兵器の開発再開を承認した。地下に潜む「テロ」に対し「強力地中貫通型核兵器」を使用すると言いだすのは目に見えている。だがイラク爆撃では、すでに大量の核兵器=劣化ウラン弾が使われてきた。バンカーバスター(地中貫通爆弾)にもウランが使われていた。米大統領ブッシュによる戦争犯罪の犠牲者は、どれほど拡大するのかはかりしれない。(豊田 護)


破壊された軍施設

 「ここは、空軍クラブといって、将校の厚生施設だった。壁や柱には大理石が張られていた。プールも三つあるりっぱなものだった」

破壊された軍施設あとで生活するオマミーンさん一家
写真:地面にはだしで座る子供たち。まだ哺乳瓶を使っている個も女性のひざの上にいる

 ガイド兼通訳のハルブさんが、わが家のような気楽さで建物の玄関を入っていった。広大な敷地の中では、男たちがエンジンのかからない車を押していた。建物はまるで建築中のように見える。内装材がはがされ、コンクリートの地肌がむき出しになっている。天井もなく、電気配線用のさや管が見える。男たちは、使えるものを拾い集めて持ち出そうとしているようにも見えた。

 「隣の建物は、イラク全土の航空管制を行うセンターだった。二階には大きなコントロールパネルが並んでいる。米軍のバンカーバスターでもびくともしなかった」

 ハルブさんは得意気に声を張り上げた。だが、階段や廊下が塞がれ、管制室に立ち入ることはできなかった。

建物を貫通した砲撃の跡
写真:ビルの壁のあちこちに大きな穴があいている

 湾岸戦争後の長い間、飛行禁止空域を口実とした爆撃を米英軍は繰り返してきた。制空権など無きに等しいイラクにとって、航空管制が行われていたのか疑問だった。だが、米軍は今回、ここにも爆撃を行った。

人口密集地で使用

 瓦礫の中を歩きながら、弾丸を探した。薬きょうを一つ見つけた。幸いにして劣化ウラン弾ではなかった。計測器を持ち合わせていなかったから断定はできないが、資料で見た形状とは違っていた。

 しかしこの施設にも間違いなくウラン弾が撃ち込まれている。「都市や人口密集地で劣化ウラン弾の使用を避けることなど決してしなかった。バグダッドの繁華街の建物を砲撃しさえした。もちろん劣化ウラン弾でだ」と米軍将校はメディアのインタビューに答えていた(http://www.scoop.co.nz/)。 使用したウラン弾は五百トンは下らないと認めた。実際はその数倍も使用されているはずだ。

 子どもたちが集まってきた。見れば、あちらこちらに囲いを作り、人が住んでいる様子が伺える。プールに付属した更衣室が居間や寝室として利用されていた。

「神様だけが頼り」

 「十九歳の息子は、この戦闘で戦死した。夫は病死。家賃が払えなくなって追い出されてしまった。三日間路上で過ごしたけど、やっとここが見つかった。ここに来て、もう四か月になる」

 オマミーン・ラジディーアさんは、これまでの苦労を淡々と語った。七人の子どもたちがいる。食料はどうしているのだろうか。いま必要なものや米軍について、聞いてみた。

 「小麦や米、砂糖・茶など支給されるもので、飢えをしのいでいる。なくなれば…。神様だけが頼りさ」

 膝の上には幼児がいた。手にした哺乳ビンの中は、わずかに残ったミルクを薄めた白い水だった。

 「今、一番必要なものは家。次に安全だね。サダムの頃は住むところがあった。米軍については、…」

 母親の口からは、米軍に対する非難の言葉は出なかったが、息子が代わって答えた。「米軍のせいで、人権侵害などの被害や事件がいっぱい起こっている。ごめんだよ」

 ここに住みついた家族にはそれぞれ事情の違いはある。だが、米英軍の侵略行為がなければ、少なくとも放射性物質とともに暮らすことはなかったはずだ。

 米兵の中には、放射線の影響と思われる障害がすでに発生している。だが米軍は、劣化ウランの後始末をする気などさらさらない。放置される放射性重金属が、今後どれだけの犠牲者を生み出してくのか。とどまるところがない。        (続く)

 

ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS