2003年12月05日発行816号

【今も続く戦争犯罪 / 占領下のイラク / 第9回 / 完全に行き詰まった米国の占領政策 / 「イラクのことはイラク人の手に」】

 戦車や鉄条網で厳重に警護されたバグダッド市内のホテルや石油省が攻撃を受けた。占領軍に対する民衆の怒りはおさまることはない。対する米軍は無差別空爆を再開する一方、「多国籍軍」に身代わりを求め、警察官などイラク人自身を弾よけに使おうとしている。軍事占領が続く限り、イラク民衆の血が流されていく。”占領をやめろ”―繰り返し、繰り返し叫ばずにはいられない。  (豊田護)


イラク人を弾よけに

 バグダッド市内一番の目抜き通り、サドゥン通りに面して警察関連の施設があった。建物前の歩道を鉄条網で封鎖し、玄関には近寄れない。たくさんの人が鉄条網のまわりに集まり、中にいる警察官と激しい言葉をやりとりしている。写真撮影は制止された。道路を横断し、反対側から群衆の怒りの表情をとらえようと望遠レンズを構えた。

 「ヘイ、ミスター」

「採用されたところだ」と笑顔を見せるイラク人警察官(9月20日・バグダッド)
写真:征服を着てにこやかに笑う二人の青年

 背後から声がした。振り返ると、薄い水色のカッターシャツを着た青年が両手首を体の前で交差させる仕草をしている。「まずい」と思った。

 同じような服装をした20歳前後の若者が数人、ビルの壁際にしゃがみ込んでいる。左腕に黒い腕章を着けている。近寄って話を聞いた。「警察だ。写真はだめだ。逮捕するぞ」。

 「日本のプレスだ。彼らは何を叫んでいるのか」と聞いた。答えはなく「OK」と追い払われた。

 帰国後、この施設がニュースになったのを見た。10月1日、給与支払を求める現職警察官や失業者のデモ隊数百人が押し寄せた。警備に当たっていたイラク警察官の威嚇射撃を機に暴動になった。「2か月分の給与をもらっていない」「賄賂を取りながら、採用しないなんて、あんまりだ」。デモ参加者の声が載っていた。イラク人同士の衝突は初めて、とも報道された。

 10月9日には、バグダッド北東部、サドル・シティ地区の警察署が襲撃された。その後、警察官に対する攻撃がたびたび、起こるようになった。

権限移譲の実態

 「イラク人ならテロの犯人をつきとめ、根絶やしするのに(米兵より)効果を上げるだろう」(11/10ライス米大統領補佐官)。米軍は「治安対策はイラク人に任せる」と言い出している。9月には数千人程度であった警察官は現在、警備部隊も含めて12万人近くに急増している。非バース党化を進めてきた占領当局だが、ここにきて旧政権の秘密警察さえ採用し始めた。占領政策の行き詰まりをよく表している。

「イラクのことはイラク人に任せて」と訴える母親
写真:黒い服を着て手振りを交え訴える女性

 占領当局は「早期の権限移譲へ方針転換」したという。あたかもすべての統治権限がイラク人に返されるかのような期待を抱かせる。だがその実態は、米政府の言いなりになる政権への移譲でしかない。

 実際、現在の統治評議会は米政府により選出された亡命イラク人がほとんどだ。中心人物チャラビは復興ビジネスで米企業のおこぼれにあずかっている。「彼らはイラク人ではない。再建のためでなく、支配のために帰ってきた」との声を聞いた。

 まして、イラクの法体系は崩壊したままだ。米軍の犯罪を裁かせない占領当局ブレマー通達さえ生きている。いったいどんな秩序を維持せよというのか。

 「この無秩序な車を見てほしい。以前はこんなことはなかった。交通警察も反則切符さえきれない」。通訳兼ガイド役のハルブさんが案内してくれた市内中心部にあるアッタ・ハリア広場は、車の洪水状態だった。

 バグダッドでは主要道路の交差点は、信号のないロータリー構造がほとんどだ。広場のように広い。そこが、買い物客の駐車場となってしまっていた。商店は車道にまで商品を並べ、広い道路をふさいでいる。渋滞をさけようと、ハルブさんも分離帯を乗り越え反対車線に入った。交通ルールさえ無きに等しい。

分断・対立をあおる

 「イラクには統治能力がないっていうのか。いったい権威を破壊したのは誰だ。イラクに腐敗をもたらした。これこそ占領軍の手柄だよ」。伝統芸能の教室まで爆撃された。古い町並みが取り壊され、勝手気ままな建物に建て替えられようとしている。ハルブさんにはその一つ一つが、がまんならない。イラク固有のものが消え去る悔しさばかりではない。イラク人の誇りが、一緒に失われていくような気がするのだろう。

仕事を求めて警察関連施設に集まった人々
写真:鉄条網が張られた街頭に順番待ちをする若い男性たち

 米軍の戦争犯罪には全く手が出せない警察が民衆の支持を得られるはずがない。警察官の「権威」は、正義ではなく米軍の暴力に支えられている。米軍捜索の先導役にしたて、反米抵抗闘争の”戦士”を犯罪者として逮捕させる。

イラク人を分断し、対立と憎しみを生み出そうとする占領政策に怒りを抑えられない。

自衛隊派兵許すな

 「罪もないイラク人の流血はもうこれ以上ごめんだ」。16歳の息子を米軍に射殺されたファウジさんや地域の人々が抗議デモの先頭に掲げた横断幕にそう書いてあった。母親は「イラクのことはイラク人に任せてほしい」と言った。軍事占領下で、虐殺や人権侵害に日々耐えているイラクの人々の声が、耳に残っている。

 9月に訪れてから、すでに2か月以上経った。米軍は再び無差別の空爆を始めた。またもや罪もない民衆の血が流される。占領をやめろ。戦争犯罪の謝罪と補償を。戦争屋の手足を縛る全世界民衆の力を発揮せねばならない。イラクの人々に再び出会うときには「自衛隊派兵は完全に止めた」と報告したい。 (終)

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