朝鮮半島の核問題をめぐる6者協議(注1)の第2回会合の開催は、米朝間の溝が埋まらないまま越年する見通しとなった。だが、2003年の東アジアの動きは、ブッシュや小泉の先制攻撃路線を阻止する、大きな平和と緊張緩和の流れを示している。そのことを象徴するものが、日本の東南アジア友好協力条約への加盟表明だ。
力による解決を放棄
12月11〜12日に東京で開かれた日本・東南アジア諸国連合(ASEAN…注2)特別首脳会議において、小泉首相はASEANの基本文書である東南アジア友好協力条約(TAC)に加盟する意向を表明した。
小泉首相は「共に歩むパートナーとしての姿勢を示す象徴的な意味がある」と、加盟の意義をことさら低めようとした。これにはわけがある。これまで「日米安保体制に悪影響を及ぼしかねない。米国抜きの政治的枠組みへの加盟は不適当」(外務省北米局)との姿勢の下に、日本政府はASEANからの加盟要請を一貫して蹴ってきた経過があるのだ。
ではTACとはどういう条約なのか。
TACは、ベトナム戦争終結の翌1976年ASEANの当初の加盟5か国が調印した条約で、加盟国同士が相互の主権と領土を尊重し、内政不干渉・紛争の平和的解決を誓ったものだ(資料参照)。もし紛争が発生した場合も、加盟国は武力による威嚇や武力行使を控え、友好的交渉で紛争を解決するよう求められる。
87年の議定書改定でASEAN以外の国もTACに加盟できるようになり、現在ASEANは周辺国にも加盟を呼びかけている。03年6月にはロシアがASEANとの共同声明でTACの重要性を確認し、10月には中国とインドが同条約に署名した。また核保有国のロシアと中国は、ASEANが推進している「東南アジア非核地帯構想」の実効性を保障する非核兵器地帯条約付属議定書にも署名の用意があると表明している。
こうした流れの中でASEAN各国には、日米関係を盾に加盟に否定的な態度をとる日本への不満が高まっていた。
先制攻撃路線と矛盾
「すべての国家が外部から干渉・転覆または強制されずに存在する権利」を謳うTACの基本原則は、正当な理由もなくイラクという独立国家への一方的攻撃を仕掛けた米ブッシュ政権の「テロ戦争」路線とは完全に矛盾する。その原則に立てば、ブッシュのイラク攻撃を支持することなどありえず、まして不法な占領支配に参加するなど本来ありえない選択だ。だからこそ外務省北米局は加盟に反対してきたのであり、小泉首相は加盟の意味を「象徴的なもの」と低めようとしたのだ。
小泉内閣がTAC加盟を決断せざるを得なかった背景には、経済成長を続ける中国がASEAN諸国との関係改善を進め、政治的経済的な主導権を握ろうという勢いを見せていることへの焦燥感がある。同地域への最大の経済援助国でありながら、政治的にはなんら影響力を行使しえないことへの焦りである。
だが戦争国家への道をひた走る小泉内閣が、紛争の平和的解決を基本原則とするTAC加盟を決断せざるを得なかったことは、東アジアにおいてはブッシュ・小泉が「対テロ戦争」の名で先制攻撃を実行する余地が極めて少ないことを示すものだ。
* * *
ASEAN諸国の動きは、国際紛争の平和的解決こそが歴史の流れに沿うものであり、ブッシュ・小泉の先制攻撃路線はその流れに逆らうものであることを鮮明にしている。朝鮮半島をめぐっても、6者協議の枠組みによる平和的解決こそが最も現実的な道だ。「拉致」問題を利用した戦争推進勢力による策動を許さず、6者協議から日朝国交正常化への流れを実現していかねばならない。
(注1)6者協議
朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)と米国に韓国・中国・ロシア・日本の4か国を加えた、朝鮮の核開発問題に関する対話の場。
(注2)ASEAN
1967年にインドネシア・シンガポール・タイ・フィリピン・マレーシアの5か国で結成した地域協力機構。その後ブルネイ・ベトナム・ラオス・ビルマ(ミャンマー)・カンボジアが加わり、加盟国は現在10か国。
【資料 東南アジア友好協力条約】
第2条 締結国相互関係は、次の基本原則により行われる。
a すべての国家の独立・主権・平等・領土保全および国家的同一性の相互承認
b すべての国家が外部から干渉・転覆または強制されずに存在する権利
c 相互内政不干渉
d 平和的手段による不和または紛争の解決
e 力による威圧または力の使用の放棄
f 締結国間の効果的協力
|