高槻工場の移転・工場閉鎖を狙うバッテリーメーカーのユアサ。工場や関連企業の労働者とともに幅広い市民たちが工場閉鎖阻止の闘いに立ちあがっている。そこに働く労働者かけでなく、地域社会全体の問題だからだ。「ユアサ高槻工場閉鎖に反対する市民の会」では、12月7日、「都市再開発で高槻市はどうなるの?!ユアサ工場閉鎖と駅前「再開発」を考えよう!」と題して市民シンポジウムを開いた。会場には高槻市民を中心に約50人がつめかけ、議論を重ねた。
問題だらけの都市再生法
労資協議中にもかかわらず、高槻市当局はユアサ工場「跡地」を含む34ヘクタールの土地を都市再生特別措置法(注)の緊急整備地域第4次指定を受けようと動き始めた。シンポジウムでは駅前再開発や工場閉鎖の問題点について活発な議論が交わされた。
市民が担ったシンポジウム(12月7日・高槻市)
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はじめに講演に立ったのは、各地の緊急整備地域を調査してきた中山徹奈良女子大助教授。緊急整備地域は民間企業の投資を進めるために徹底した規制緩和、高さ制限・容積率の緩和など設けていると解説し、「東京都の一部を除いて、どこでも企業は積極的な出資に踏み切っていない。自治体が負担して基盤整備を行っているのが実態。寝屋川市のように、法律で定められた枠を越えた費用負担までしている」と問題点を示す。
「もうひとつの問題点はアセスメントや計画着手の期間の短縮。最低2年半かけていたものが、6か月以内と定められた」と市民不在のまま一方的に計画が進められる都市再生特措法の危険性を強調した。
さらに「工場撤退は進出と同じくらい地域社会に大きな影響を与える。決して一企業の問題ではない。米国には工場閉鎖法があり、欧州では企業の社会的貢献を評価する形で未然に歯止めを掛けている。日本でも市民の議論と運動でコントロールしていくことが必要だ」と行動をよびかけた。
市民の批判噴出
シンポジウムでは市民の会会員、市民活動家や地元議員から計画への批判が相次いだ。
不正をなくそう市民連絡会代表の脇田憲一さんは、高槻市のこれまでの再開発について誤りを指摘。「工事中の駅北再開発では、最近大手メインテナンス会社が撤退し、高槻市がビルの地下駐車場を30億円で買い取る始末。完成まで当初予算の2倍を超える事業になると見込まれている。その一方で、先行開発した南側のグリーンプラザビル1号館の3階以上はガラガラ。周辺商店の撤退、閉店も相次いでいる」と周辺に多大な悪影響を与えていることを訴えた。
市会議員の二木洋子さんは計画の不透明さを証言。「9月17日・18日の2回、2つの委員会の場で簡単な報告があった。都市再生特措法で進めていく、12月中に府に申請するという内容だった。議員から多くの意見が出たが、市当局は民間プロジェクトなので、と詳細な報告を拒んだ」と報告した。
市民の会の寺本和泉さんは高槻に定住して27年になる。過去に大阪市の再開発で住宅を追われた体験を持つ。「一番つらかったことは、他人の意思で住み慣れた街を力づくで追い出されたこと。再開発地域周辺でも地上げが横行し泣く泣く追い出された人も多い。家族分断や環境悪化、交通量の増大など弱いものの立場が省みられない乱暴な手法が問題だ」
参加者から多くの質問が集中した。「駅前になぜ大規模商業施設が集中しなければならないのか。そのうえ税金を使って工場閉鎖を進め失業者を増やすなんてたまらない」「ユアサの工場の中では機械の配置など移転を既成事実化する動きが始まっている。具体的に何も決まっていないと高槻市は言うが、そうではないのか」
鍵は情報公開
最後に中山助教授が発言に立ち、「今、重要な行動は情報公開。地元自治会などに説明会を開いたのに、市当局が具体案を持たないことはまずありえない。さらに工場閉鎖が未定のままでの指定は聞いたことがない。財政負担を伴う開発なのに市議会での議論もない。こんな状況でいくら市当局が動いても、すんなり指定が得られるわけがない」と市当局の強引な手法の違法性を指摘した。
高槻市当局の思惑がはずれ、府への申請が当初より2か月ほど遅れていることも、公表された。
市民の会の杉岡準元さんが「企業のリストラ阻止から再開発を考える運動にまで広がってきたが、さらに影響力を発揮できる展望をつかむことができた。今日のシンポでユアサ・高槻市・大阪府と交渉し、情報公開させていくことで歯止めをかける知恵を授かった」と集会の成果をまとめる。代表世話人の一人、伍賀偕子さんも「企業の撤退に対しても、企業の勝手で済ませるのではなく、私たちが意見を言っていける問題なんだと言う自信を得た」とシンポの意義を強調した。
※(注)都市再生特別措置法―小泉首相が都市再生のためとして「建設需要と土地の流動化促進」の名で02年4月に制定した。民間投資を引き出すための規制緩和とアセスメントの簡略化などを柱とする。