ロゴ:劣化ウランの毒性を告発する 2004年02月13日発行826号

第1回『認識を変えるために』

 イラクでもアフガニスタンでも使用された劣化ウラン兵器を廃絶させるためのキャンペーン運動が始まっている。その鍵となる劣化ウランの被害を医学的見地から追及している医療問題研究会の林敬次さんにシリーズで寄稿してもらう。


 読者の皆さんは、劣化ウランは大変危険だと思っておられる方ばかりでしょうが、世間はそうとばかり言えないようです。

 昨年10月に京都で開催された第4回IPPNW(核戦争防止国際医師会議)北アジア地域会議で、劣化ウラン弾の禁止を求める意見に対して、執行部は明確なエビデンス(証拠)がないとし、単に検討するとしました。IPPNWは、1981年に当時のソ連の医師の呼びかけで米・英・日本など12か国で設立された核戦争に反対する医師の組織で、85年にノーベル平和賞を受賞しています。劣化ウラン弾は91年の湾岸戦争で大量に使われ、多数の被害が報告されているにもかかわらず、北アジアのIPPNWがこのような態度をとっていることが、劣化ウラン弾に対する世界の認識の弱さを示しています。

劣化ウランの被害は深刻
劣化ウランの犠牲になった新生児

 一瞬にして大都市を廃墟とする原爆や水爆と比べ、劣化ウラン弾の被害は、特徴のない全身症状、流産や奇形・ガンを発生させ、徐々に体を蝕んでいくものですから、わかりにくいことは確かです。そこを利用して、米政府は、劣化ウランは「天然ウランの放射性より40%低い」、「劣化ウランがイラクの新生児がんの原因だという非難は、事実無根である」としています(米国務省国際情報プログラム室)。

 これは、泥棒本人が盗んでいないといっているようなものですが、核査察で有名なIAEA(国際原子力委員会)はどうでしょうか。2003年発行のIAEAの論文によれば、劣化ウラン弾の破片が体内に残った兵士以外は、自然に存在するウラニウムの値以上の影響がない。それゆえ、健康への影響は予想できず、ガン化の危険性は理論的に推定しているだけだ、などとしています。IAEAなんて、いつもアメリカの手先になっているところですから、これも驚きませんが。

ダイオキシンもそうだった

 それでは、サーズや鳥インフルエンザで大活躍中のWHO(世界保健機関)はどうでしょうか? インターネットで公表されている最も新しい見解は03年1月のものです。UNEP(国連環境計画)のコソボでの調査を引用し、「戦争地域の人々がかなりの被曝をする可能性は非常に低い。生殖や発達への影響は人間では報告されておらず、動物実験では数個の報告しかないので明確な結論は引き出せない」と言う一方で、劣化ウラン弾が使われた場所は清掃作業が必要とか、子どもは危ないので防御しないといけない、など混乱しています。

 1959年にIAEAは、WHOが行う放射線の影響調査を拒否する権限をもちました。公的にはこの合意がなくなった今もWHOに多大な影響力を持っていることは、WHOがチェルノブイリ事故のまともな報告を出せなかったことで明らかです。

 ベトナム戦争でまかれたダイオキシンも最初は同じような扱いがされました。しかし、反戦・環境保護の闘いで、今ではダイオキシンの危険性は誰もが認めています。劣化ウラン弾の怖さをキャンペーンし、その禁止条約を作る一助とするために、次回からその被害を医学的見地から紹介します。

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