2004年02月20日発行826号
ロゴ:占領拒むイラク民衆

本紙記者サマワ緊急ルポ 第5回

【「失業者1万人」の元凶は占領軍 / 必要なのは主権の回復】

 日本政府は、イラク軍事占領への参入をごまかすために、サマワでの雇用創出に腐心している。しかし、ODA(政府開発援助)を軸とする「復興援助」は決してイラク民衆のためではない。イラクにおける失業問題は、主権を奪われ外国企業に市場を支配される構造にこそある。サマワの人々の声を聞いてほしい。(豊田護)

日本への過大な期待

 「サマワには一万人の失業者がいる。俺もその一人だ。誰も雇用対策などしていないさ」。ヤッヒア・サッナイーム(34)は仕事の手を休めて言った。爆撃を受けた学校の解体作業が始まり、ヤッヒアは日雇いの仕事にありついていた。

日雇いで解体作業を行うヤッヒアさん
仕事場で語るヤッヒアさん

 「毎日40〜50人ぐらいが雇われている。日当は6千ディナール(約4百円)。子どもが4人いるけど、これじゃあ月に2万5千ディナールの家賃も払えない」

 9か月間放置されたすえ、県の統治評議会が地元の建設会社に発注した。1か月もすれば解体作業は終わる。建設会社が請け負ったのは、そこまでだ。建設はいつのことだか、誰がするのかわからない。

 サマワでは、昨年暮れから今年にかけて、失業者のデモが3度あった。1月3日には数千人が市庁舎に押しかけた。

 デモを呼びかけた一人、ラワッド(28)は当時の様子を語った。「平和的なデモだった。帰れと言われ騒然となった。デモ隊の中から石を投げるものも出はじめた。オランダ軍やイラク警察が威嚇射撃をした」

 道路舗装工事の現場監督だったラワッドは、占領後仕事がなくなった。12人の家族を養わねばならない。仲間数人が集まってデモを計画した。

 デモ主催者の一人、モハネッド(23)はいった。「私たちは、雇用の確保だけでなく、米軍駐留の拒否や電気・水道などの改善を求めた。次の日、もう一度自治体の長官に会いに行った。長官は『日本が来れば、みんな解決するだろう』と言った」

 あまりに無責任な対応だが、日本に対する期待を否定せず、「誤解」を利用してきたのは他ならぬ日本政府だった。小泉首相は、アラブのテレビを使って「復興支援」を宣伝した。軍事占領に加担するのをごまかした。イラクでの市場争奪戦に加わる意図を隠したのだ。

利益は外国資本へ

 ラワッドは言う。「仕事はほとんど米企業が契約を受け、イラク人のためにならない方法でされる。米国はイラクのことなど考えていないとみんな思っている。日本が多額の金を使って、軍を駐留させるのはイラク人のためにはならない。その分の金を渡してくれれば、もっとたくさんのことができるのに」

 米企業が独占する復興ビジネスは、決してイラクためではない。パイプラインの復旧に、一層の低賃金で雇える外国人労働者を使う企業があった。地元業者の見積額の10倍の工事費で請け負った企業もある。占領下での「復興」は、主権のないイラク民衆にコントロールができない。

 ODAをテコに開発独裁政権を支え市場支配を進めてきた日本企業の海外進出の手法も、そうだった。独裁権力は強まり、民衆は貧しさを増した。

 「自衛隊が派遣された地域では、ODAの枠組みの中でできる限りのことは行いたい」と外務省は企業向け説明会(1/14)で答えている。イラクに対するODAは、まず620台のパトカーとなった。サマワには20台がやってくる。

権益狙いの出兵

 夜、街に出た。露店の茶店でチャイを飲んだ。男たちが集まっている。

夜の茶店に集まった人々。小銃を持っているのは警察官(1月8日・サマワ)
茶店に集まった男たち

 「日本がやってくるそうだな。半年待ってやろう。8月になって、もし仕事がなければ、イラクから外国人をみんな追い出してやる」

 肩章には地方警察の文字があった。握った銃が鈍く光っていた。隣にいた男が言った。「家には9人の子どもがいる。もう三年間も仕事がない。俺は半年も待てないね。ここ1〜2か月で仕事にありつけなかったら、家にある手榴弾で外国人と闘うつもりだ」

 闇の中で語られる言葉は、あまりにも激しい。勢い余った感もある。思いは痛いほどわかる。

 イラク民衆は”自由、復興”の言葉に「希望」を抱いた。だが、それはことごとく打ち破られた。

 イラクにおける失業は長い経済制裁によるダメージと占領による行政サービスや企業活動の停止によるものだ。それはすべて、米英、そして日本政府が責めを負わねばならないものだ。だが、これら占領軍は、暴力による軍事占領と民営化による経済支配で答えた。民衆の怒りは高まらざるを得ない。失業問題の解決は、イラク経済の立て直ししかない。外国資本による支配を排除できるイラク人の主権回復が必要なのだ。

 「(軍隊の派遣を決めた)日本の政治家に伝えてほしい。日本軍はいったい誰から誰を守ろうというのか。私たちなら、自分で自分のことは守れるのに」。モハネッドはそう言った。

 日本軍が守るものは、イラク民衆の安全でも雇用でもない。自らの権益、ただそれだけだ。      (続く)

次号予告

 サマワ編は今回でひとまず終了です。次回からは、イラク各地のルポを連載します。なお、「Q&A」コラムは次号より再開します。(編集部)

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