ロゴ:劣化ウランの毒性を告発する 2004年03月19日発行831号

第6回『毒性示す事実突きつける』

 最近、劣化ウランに関する集まりの議論や資料に接して、劣化ウランの害を否定する意見に対する、まとまった反論が必要だと感じました。在日米国大使館が、IAEA(国際原子力機関)のウェブサイトから抜き書きしたものを使って、そんなに強い毒性はないですよ、と宣伝しています。これが毒性を否定する典型的な主張と思われますので、これに対して具体的な事実で反論します。

 その抜き書きは、劣化ウランとは「有毒で高密度の超硬金属である」としながら、「劣化ウランは健康に有害か」の項では以下のように書いています。(1)健康上あるいは環境上の影響の増大との関連を、信頼できる科学的根拠に基づいて証明するものは存在しない。(2)最も信頼できる調査は劣化ウラン弾の破片が体内に残っている復員兵に関するもので、ウランによる健康異常をきたした復員兵はひとりもいない。(3)劣化ウランの毒性は化学的毒性であり、放射能でない。(4)WHO(世界保健機構)によると、「ガンのリスクは、かなり低い」。

「科学的証拠」

 今回は(1)が嘘であることを証明します。すでに、劣化ウラン弾の毒性を示す「科学的証拠」は、湾岸戦争症候群、流産や先天性形成異常、白血病を中心としたガンの増加という形で現れていることを述べてきました。これだけでも十分ですが、それに加え、当の米軍が作った「科学的証拠」を突きつけたいと思います。

 米軍放射線研究所のミラーらの、発ガン性を示す実験は、前回紹介しました。彼女らはまた、劣化ウランをネズミの体内に埋め込んで、そのネズミの尿に含まれる劣化ウランが、サルモネラ菌を使った催奇性テストで陽性だったことを報告しています。このような米軍の研究などをくわしく検討して、海軍健康研究センターのArfsten DPや、空軍基地のRitchie GDなどは、2001年に、連名で以下のような論文を発表しています。(1)湾岸戦争やコソボでの戦闘で、人間が劣化ウラン粒子を吸入したり破片が刺さったりした。その後の10年、高濃度のウラニウムが尿から検出された。(2)ネズミでは、劣化ウランが睾丸、骨、腎臓、脳に蓄積していた。(3)試験管内テストでは遺伝子障害性と催奇性があり、ネズミに埋め込むと腫瘍ができた。(4)また、ネズミ類の生殖に、重金属としても放射能物質としても、強い影響を与えると言ってよい。

明らかな毒物

 動物実験でこれだけの証拠があれば、それだけで明らかな毒物です。米軍は、この内容は公式には認められないとして、この論文には「ここに載せた意見は著者の見解であり、政府や軍のものではない」と断り書きが入っています。米政府の圧力にもかかわらず、これだけの証拠が出ているのです。細菌から人間にまで、さまざまな毒性を示す多数の「科学的証拠」があるのに、「科学的証拠に基づいて証明するものは存在しない」などとよくも言ったものです。以上に加え、ここでは省略しますが、放射線量が劣化ウランの1・7倍である天然ウランに関しても、毒性ありとする証拠があります。

 最後に、理論的な批判について触れておきます。これは、原発事故や各施設周辺の健康被害実態を説明するために構築されてきた、慢性的内部被曝障害の理論から、劣化ウランの毒性を証明する方法です。これは、琉球大の矢ヶ崎克馬氏などがわかりやすく解説されています。より体系的にまとめたものとしては、ECRR(欧州放射線リスク委員会)が2003年勧告を発表しています。これらの理論は大変重要ですが、まだICRP(国際放射線防御委員会)も含めて多くの組織・科学者が認めていませんので、理論と共に劣化ウランの毒性を示す事実を突きつけることが、多くの人に理解してもらうために特に重要かと思われます。

(医療問題研究会 林 敬次)

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