2004年03月26日発行832号
ロゴ:占領拒むイラク民衆

【全土に広がるレジスタンス第11回 占領監視センター(OWC)を訪ねて / 民衆の闘いを世界に発信】

 イラクに対する侵略から1年。繰り返される虐殺・人権侵害に全世界で占領やめろの声が響き渡った。イラク現地でも、失業者組合などの労働者や民衆による反占領の闘いが続いている。占領下での戦争犯罪や民衆の闘いを世界に発信している占領監視センター(OWC)の事務所を訪ねた。  (豊田 護)


拡充したスタッフ

OWC代表のエマン・アハメド・ハマスさん(1月3日・バグダッド市内の事務所にて)
写真:顔写真

 バグダッドのメイン・ストリート、サドゥン通りを南東に向かうと、引き倒された「サダム・フセイン像」のあったフィルドス広場を経て、アラビアン・ナイトの「アリババと40人の盗賊」をモチーフにした彫像が飾られたロータリーに至る。

 ここから歩いて数分のところにOWCの事務所がある。あたりはカラダ地区とよばれる住宅街だ。レストランやホテルが建ち並ぶ大通りから脇道を少し入ったところに建つ集合住宅の一室を占めている。

 1月3日、OWC代表のエマン・アハメド・ハマスさんはデスクに向かっていた。

 9月に訪れたときには、事務所はまだ準備中といった状況だった。今回はすっかり事務所らしくなっていた。代表の部屋の前には秘書も置かれ、各部屋ではスタッフが打ち合わせや資料整理に追われていた。

 「今、調査・研究スタッフ3人がフルタイムで働いています。それに、フランスや米国のNGOから一人ずつ。他にも支援組織から送り出されたメンバーがいます」とエマンさんは活動状況を説明してくれた。

占領当局の妨害

 そんな会話の合間を縫って、エマンさんは一人の若いスタッフの取材内容に注文をつけた。昨年12月15日、アダミヤ地区で起こった市民デモに対する米軍発砲事件のことだった。周囲にいた人々も含め30数人が殺され百数十人が負傷した。青年は「住民からの発砲が引き金になった」と書いた。エマンさんは「本当にそうか。米軍からの挑発はなかったのか。この内容ではOWCのレポートにはならない」と重ねて取材を要求した。

占領当局に抗議する市民のデモ(1月2日・バグダッド)
写真:旗を打ち振り、手を上げる人々。手前には米軍が設置した有刺鉄線の帯が見える。

 OWCのウェブサイトには、占領軍の犯罪行為や労働者の闘いについて独自レポートが掲載されている。視点の確かさ、情報の信頼性がこうして保たれていると感じた。

 だが、民間人の被害について情報を得るのは難しくなっているという。CPA(暫定占領当局)が統計的情報は外部に出すなという命令を出しているからだ。

 「病院に行って、これこれについて聞きたいというと、厚生省に行って許可をもらってくれといわれます。そこで厚生省に行くと、そういう情報を収集することはもうやめたなどといいます。ブレマー行政官ですら、ジャーナリストから質問されても、そういう情報は集めていないと平然としています」

 OWCの活動に対し占領軍からの妨害はないか、聞いてみた。「占領当局はすべてのNGOに登録を命じました。活動状況や財政状況などの詳細を報告しろというのです。イラク国内の組織だけでなく、国際的な組織にも適用されます。気に入らなければ閉鎖を命じることもできるのです。これは国際法違反だし、国連安保理決議1483(米英の占領を容認しイラク再建への協力を取り決めた決議)にも違反しています」

 昨年11月にCPAが出した命令45号だ。届け出を求められる内容は、全職員の名前、資金提供者・団体の名前や住所、出資額など20項目にわたる。

情報発信に支援を

 さらに占領当局は、サダム・フセイン時代の法律を持ち出して、労働組合の結成すら認めようとしない。デモにさえ嫌がらせをする。

 「少し前のことですが、バグダッドで誘拐・拉致・人身売買をやめさせようと訴える女性たちのデモがありました。米軍はリーダーにデモをやめろと命令したのです。『自分の街で女性の苦難を救えと声を上げただけなのに、なぜいけないのか』と抗議すると、黙れと怒鳴ったそうです」

 大量破壊兵器が見つからない中で、「イラクに自由と民主主義をもたらした」と攻撃の正当化を図る米英軍。事実は逆だ。無差別殺戮・不当勾留など人権侵害の限りをつくしている。イラク民衆の民主的な権利を認めず、自由な活動を徹底して押さえ込もうとしているのだ。

 困難な状況の中で、イラク現地から貴重な情報を発信するOWC。その活動を支えるには、反占領の闘いを全世界へと広げ、つながることだと思った。      (続く)

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