2004年04月30日発行837号

イラク失業労働者組合(UUI)海外代表 アソ・ジャバールさん 証言要旨

【世界の反戦運動とともに占領も紛争もないイラク】

 イラク国民は35年にわたりフセイン・バース党政権の独裁に苦しんできた。

 フセイン政権に生物化学兵器を供給してきたのは米国など西側政権であった。クルド人に対する化学兵器の使用を許したのも彼らだ。米CIAはイラク・イラン戦争の8年間、フセインに武器を与えた。米政権は中東の最も残虐な政権を支えてきたのだ。

 米国がイラク国民に民主主義をもたらすというのは、戦争プロパガンダにすぎない。なぜなら、現在のイラクは、フセイン政権による迫害と抑圧が占領軍による迫害と抑圧に取って代わっただけだからだ。フセイン時代、デモにイラク警察とバース党政権が発砲したが、今は米占領軍が同じことをしている。

 イラク統治評議会の構成はイラク社会の民族的宗教的区分に基づいている。このため、イスラム団体やクルド民族政党、アラブ民族政党、前政権の治安組織などイラクの最も反動的な勢力が統治評議会に入り込んだ。

 米国の侵略と占領はテロリスト・反動勢力を力づけてしまった。民衆を攻撃・抑圧する組織は、米国の見方ではテロ組織ではない。米国の利益に対抗する勢力がテロ組織なのだ。米政権が統治評議会内に反動的なイスラム政治勢力を招き入れたのも、彼らが米国の政策・イラク占領を支持しているからにすぎない。

 米国の真の目的は、新世界秩序を樹立し、世界の軍事的政治的支配を達成し、石油をはじめとした中東の資源を確保するという戦略の実現にあった。米政権が9・11事件を利用して、以前から計画していたイラク侵略を実行に移していったことは数々の資料で明るみに出されている。

 9・11事件は、国際テロリズムの二つの潮流間の紛争であった。一つは米政府の国家テロ、もう一つはイスラム政治勢力によるテロである。この紛争は今や、イラクばかりか中東の他の地域、さらにヨーロッパの一部にも広がり、世界の人々を脅かしている。

 イラク国民は米国の政策、米国による独裁政権への関与に十分すぎるほど苦しんできた。13年以上にわたる経済制裁を見れば分かる。制裁は150万人以上、主に老人や子どもたち、病弱者の死をもたらした。医療の供給が断たれたためだ。フセイン政権は、イラク国民の要求を抑えつけ、沈黙させるために制裁を利用した。制裁はイラク国民にとっては広島・長崎の原爆に劣らぬ大量破壊兵器となった。何十万人もの人々が逮捕され、拷問を受け、処刑された。

 米国は制裁の間、イラク軍施設を攻撃するとの口実で、クラスター爆弾や劣化ウラン弾など違法な兵器による爆撃を続けた。何千人もの人々が死に、後遺症に苦しんでいる。

 一言で言えば、イラク国民は米政権とイラク政権との紛争の最大の犠牲者となった。

 91年の湾岸戦争の際、先代ブッシュはイラク国民にフセイン体制打倒を呼びかけた。全土で人々が蜂起し、14の都市を解放した。ところが、最後の段階で米軍はフセインと取引し、イラク軍に蜂起を弾圧させた。数十万人が殺された。イラク国民は制裁に加えて米国の政策によるこの苦い経験をよく覚えており、米政府が民主主義や人権をもたらし、楽園が訪れるなどという幻想は持っていない。

 今、フセイン政権が打倒され、イラクは米軍・連合軍によって占領され、イスラム政治勢力と米政権というテロリズムの二つの潮流が対立している。統治評議会には様々な民族的宗教的グループが入り込み、イラク各都市で熾烈に争い合っている。イスラム政治勢力の台頭はイラク国民の生活をますます悪化させた。

 イスラム勢力の最大の攻撃の的になったのが女性だ。フセイン政権崩壊後、昨年8月までの間に400人以上の女性が、イスラムの反動的伝統に従わないというだけの理由で誘拐され、殺された。武装した宗教集団が大学に来て、伝統衣装を身につけていない女子学生が教室に入るのを阻止する事件も起きた。統治評議会は昨年7月、国際女性デー(3月8日)を廃止し、預言者ムハンマドの娘の誕生日8月18日を女性の日と決めた。女性たちは仕事にも就けず、外に出歩くこともできず、占領と統治評議会の決定によって経済的社会的精神的に重大な打撃を受けている。

 戦争と経済制裁、インフラの破壊のため数百万人が失業した。失業率は70〜80%に達する。労働者は侵略戦争と占領によって多くの成果と権利を失った。統治評議会はフセイン政権当時と同じ労働法制を適用している。今年1月には、統治評議会を構成する政党の公式グループ以外の労働組合はすべて違法化した。団結権、スト権も認めず、国際労働基準に違反する。

 不安定な状況、占領を米占領軍とイスラム政治勢力の双方が利用している。占領軍はテロの危険を理由に駐留を続け、イスラム政治勢力は占領を口実にイラク市民を攻撃している。水道設備や発電所が爆破されている。メディアや国際人道機関までが攻撃の対象となった。これらすべてはテロリズムの二つの潮流の紛争の結果だ。

 この困難な状況を克服する道、オルタナティブ(対案)は何か。

 米占領軍とイスラム政治勢力という二つの反動的戦線が相争い、市民を攻撃し、市民の基本的人権を侵害している中で、市民の力を結集して第三の戦線を築くことだ。この市民の戦線は進歩的女性運動や失業者運動、労働運動、進歩的学生運動、非宗教的諸団体から成り、イラクに市民社会を再建するために共に行動する。われわれはイラク失業労働者組合(UUI)を結成するとともに、労働運動ではイラク労働者評議会労働組合連合(FWCUI)、女性運動ではイラク女性自由協会(OWFI)を持ち、教員・学生の進歩的団体も組織しつつある。左派政党ではイラク労働者共産党などがこのオルタナティブを支援している。

 市民の戦線の目的は以下の5点だ。

 第一に、占領を終わらせ、米軍をはじめとした占領軍を撤退させること。これこそ現在の不安定の最大の原因だ。

 第二に、イラクに非宗教的非民族的な政教分離の政府を樹立すること。すべてのイラク国民を人種や性、民族、宗教によって差別することなく平等に処遇すること。

 第三に、イラク国民の自由と権利が達成・享受されること。政治的自由が保障され、表現・思想・報道・結社の自由、ストライキ権などすべての基本的人権が承認・保障されること。

 第四に、イラク国民の生活条件を改善すること。現在の生活は危機的だ。多くの人が失業している。医療施設は機能していない。今も一日数時間しか電気が通じない。きれいな飲用水もない。失業者には職が提供され、進歩的な労働法が施行され、男女の完全な平等が保障され、あらゆる社会的経済的分野で女性の平等な待遇が促進されなければならない。

 第五に、安全が保障されること。米占領軍とイスラム政治勢力はともに、民間人攻撃や爆発事件などで市民を危険にさらしている。

 市民の戦線は、自由を愛し、よりよい生活を求めて闘う民衆の戦線だ。この戦線は、米国のテロとイスラム政治勢力のテロという二つの国際テロときっぱりと区別され、2500万イラク国民の様々な階層を組織し、占領も民族的宗教的紛争もないイラクをめざす。

 われわれはひとりではない。世界規模の反戦運動がついている。暗黒のシナリオを止め、イラクを国際連帯のモデルにすることはできる。

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