2004年07月02日発行844号 ロゴ:なんでも診察室

【アルコールと痛風】

 ビールの季節がやってきました。蒸し暑い今の季節こそ、そのうまさは格別です。しかし、その喜びの代償は少々きついですよという研究結果をお知らせします。

 みなさんは痛風という病気をご存じですか。突然訪れる激しい足の痛みで眠れず、歩くどころではありません。痛みは数時間から2週間も続く場合もあります。最初の痛みから10年もすると様々な関節の慢性的な痛みが現れ、関節の腫れが戻らなくなります。日本の患者は推定40万人、男性がほとんどで1000人に30人程度、女性はその20分の1程度です。

 この4月に権威ある医学雑誌ランセットに、非常に厳密な研究結果が報告されました。この研究は、歯科医、薬剤師など医療関係者で40才から75才の男性5万人を12年間も追跡しています。驚いたのは、お酒を飲んでいない人が大変多いことです。アルコールのビール換算量では、ゼロ24%、1日100cc未満24%、600から1000cc未満が8%、1000cc以上はわずか3%でした。私の周辺の方々とは大変な違いです。

 この5万人の中で、12年間に痛風を発病した人は、アルコール・ゼロの発生率を1としますと、600から1000cc未満で2、1000cc以上では2・5にも跳ね上がります。この2・5倍とはどんな意味があるのでしょう。男性で痛風になるのは人口1000人当たり3人程度です。私の計算では、1000人が一日1000cc以上飲むと約5人の増加、すなわち約200人に1人増えることになります。

 肥満の方は発病の危険性がより高くなります。体型指数(体重kg/身長mの2乗)が25以上ですと、アルコールなしでも2・3倍、ビールで1000cc以上だと実に5・6倍にもなります。アルコールを飲みたければ体重を減らしましょう。

 ビールが危ないのならウイスキーや焼酎で乗り切ろうと思っておられる方へ。残念ですが、蒸留酒もビールとほとんど同じ増加でした。しかし、ワインでは少々飲んでも増えませんでした。これは今までの教科書的な見解と違うところです。

 とはいえ、「適当な」量の飲酒をしている人は、心筋梗塞と痴呆になりにくいという研究結果もあり、蒸し暑い夜は、少々のビール、飲み足りないなら少々のワインならまあいいでしょうか? 運悪く痛風になった人には、十分節制していただきましょう。

 以前も書きましたが、酒が良いという研究には酒産業の影があること、大酒の行き着く先には正常心と家族・仲間が崩壊するアルコール中毒という悲惨な結果もあることもお忘れなく。

(筆者は小児科医)             

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