ロゴ:童話作家のこぼればなしロゴ 2004年07月16日発行846号

<31>『蘇れ! チョウセントラ(上)』

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 熱狂的な阪神ファンだ。長年、試合が始まるとメガホン片手にテレビの前で「参戦」(観戦ではない)し、選手とともに戦ってきた。ところが昨年、ふと、「ユニフォームについているトラのマークは何トラなんだろう?」と気になった。現在トラは、棲む地域によって、スマトラトラ、インドシナトラ、ベンガルトラ、アモイトラ、アムールトラと分けられている。中でもアムールトラは、ロシアではシベリアトラ、朝鮮半島ではチョウセントラ、中国北東部では東北トラと呼ばれている。何トラか考えると、仕事がまったく手につかなくなってしまった。

 そんな私に天の助けか。元王子動物園園長の権藤眞禎さんが「阪神タイガースで野生のトラを救おう!」というイベント(昨年8月開催)で、スライドを映しながら阪神球団とトラの関わりについてお話をされた。

 「タイガースの前身は、昭和10年に設立された大阪タイガース。タイガースという愛称は、阪神工業地帯をデトロイトのような立派な工業地帯に発展させたいという願いから、大リーグのデトロイトタイガースにあやかってつけられました。トラのマークは昭和11年にできましたが、誰が何を基に描いたのか、詳しいことはわかってはいません。しかし私が思うには、チョウセントラしか考えられない。当時(朝鮮は日本の植民地)、日本の警察は、どんどん朝鮮のトラを退治しました。韓国に唯一残っているこの剥製も、実は京都の島津製作所が作ったものなのです。朝鮮のトラが日本に持ち込まれ、それを基に、阪神タイガースのトラが描かれたのは間違いないでしょう」

 権藤さんはお話の中で、『韓国の虎はなぜ消えたか』(遠藤公男・講談社)を読むよう薦められた。さっそく図書館で借りて読むと、日本の憲兵や警察によって10年あまりの間に100頭近いチョウセントラが捕獲されたと記されていた。更には憲兵や警察が朝鮮半島に『虎狩りツアー』に出かけ、仕留めた獲物で盛大なパーティーをしている資料も手に入れた。

 チョウセントラは建国神話にも登場する民族のシンボルなのに……私はタイガースのマークのモデルがチョウセントラだと知り嬉しく思った反面、日本と朝鮮半島の悲しい歴史の「犠牲者」が人間だけではなかったことを思い知ったのである。日帝時代の乱獲がたたってか、チョウセントラは韓国では既に絶滅し、北朝鮮にごくわずかが残るだけになってしまった。

 ところが、である。最近手に入れた韓国の動物図鑑には、いないはずのチョウセントラが韓国のいくつかの施設で飼われていると書いてあった。剥製ですら一体しか残っていなかったというのに、いったいどのようにして手に入れたのか? 「謎」を解くため、韓国に飛んだ。

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