球団合併・1リーグ制への移行をめぐって、プロ野球界が揺れている。ファンや選手の意向を無視した球団オーナーの独断専行、選手を見下す数々の暴言、労働組合(選手会)の軽視−−今回の騒動はプロ野球だけの問題ではない。企業の論理がすべてに優先する人権小国ニッポンの縮図といえよう。
独裁者ナベツネ
球団合併の動きが報じられて以来、球団オーナーの言動が注目を集めるようになった。彼らは一部例外をのぞき親会社のトップでもある。巨大企業集団の総帥やメディア界の首領、財界の若手論客など、社会的影響力の大きい人物も少なくない。
つまり、オーナー連中の傲慢かつ品性下劣な言動は、日本の企業社会にはびこる人権軽視思想のあらわれということができる。
実例をあげよう。最初はこの人、ナベツネこと渡辺恒雄・読売ジャイアンツオーナーである。超ワンマンとして知られるナベツネは一切の異論や反論を許さない。権力を用いて、徹底的に排除する。
球団合併の件では、労組日本プロ野球選手会の古田敦也会長(ヤクルトスワローズ)を槍玉にあげた。古田会長がオーナー陣との直接交渉を求めたことにナベツネは激怒。「たかが選手が無礼なことを言うな。分をわきまえなきゃいかんよ」と言い放った。
球団合併は選手の身分保障にかかわる問題である。労組の代表が経営側との交渉を求めるのは当然の権利だ。ナベツネ発言は明らかな労働組合法違反である。大体、野球ビジネスは選手がいるから成り立っているのではないか。「たかが選手」とは何という言い草であろう。
近鉄の選手も参加した合併反対の署名運動(7月19日・大阪ドーム前)
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ご存知のように、ナベツネは読売新聞グループの会長である。読売新聞の論調を右旋回させた張本人であり、巨大メディアの支配者として改憲・戦争国家づくりの旗を振り続けている。
今回の「たかが選手」発言は、「権力者の言うことが絶対」という渡辺恒雄の発想を端的にあらわしている。「たかが国民が国家の一大事に口出しをするな」−−イラク派兵や有事法制をめぐる読売新聞の論調からは、そうしたナベツネ節が聞こえてくる。
国鉄型解雇の脅し
他のオーナーにも少し触れておこう。球団合併の仕掛け人と言われるオリックスの宮内義彦オーナー。彼は総合規制改革会議の議長として、労働法制の改悪=首切り自由化を主導した人物である。
「解雇はどんどん増やしたほうがいいと思うんです」とは宮内の弁(島本慈子『ルポ解雇』 / 岩波新書)。球団合併となると多くの選手・球団職員が仕事を失うことになるが、宮内は企業の社会的責任などみじんも感じていない。
近鉄本社・山口昌紀社長の暴言も聞き捨てならない。バファローズ選手会はファンの呼びかけに応え、合併反対の署名活動に協力することを決定した。これに対し山口社長は「署名に加わったら、プロテクトされへんよ。気に入らないならチームを出てくれて構わない」と断言した。
要するに、会社の方針に異を唱える者は新会社の採用名簿に載せない、ということだ。「国鉄型解雇」をちらつかせての脅しである。不当労働行為以外の何ものでもない。
背景に読売の焦り
球団合併・1リーグ制騒動の背景には、巨人人気の凋落という事情がある。ここ数年、巨人戦のテレビ視聴率が低迷を続けている。視聴率の下落はスポンサー離れを招く。テレビ局にとって巨人戦は巨額の放映権料を支払うだけのソフトではなくなった。
これに危機感を抱いた読売は、慢性赤字に苦しむパ・リーグの球団を抱き込み、1リーグ制への移行を狙った。そうすれば新たな人気カードを提供できるという読みである。すべては巨人の人気回復策、儲けのためなのだ。
しかし、突出した人気球団に他球団が依存する(だから巨人の横暴に逆らえない)構造自体が、プロ野球人気のかげりをもたらしたのではなかったか。米大リーグでは、全国放送の放映権収入や商標権収入などを連盟がプールし、全球団に平等に分配している。サッカーJリーグも同じ方式を採用している。こうした共存共栄の思想が日本のプロ野球には欠けている。
「統制団体が一括して利益をばらまくなどという競争制限政策は、断じて体を張って阻止する」。誰の言葉か、もうおわかりだろう。そう、ナベツネである。戦争国家づくりの旗振り役が弱者切り捨て新自由主義経済の信奉者とは、まったく何というわかりやすい構図であろう。
ファン無視の合併劇に世論の批判は日増しに高まっている。その影響を受け、1リーグ制反対に回る球団もでてきた。ナベツネのような手前勝手な経営者の暴走がまかり通るようでは世の中闇だ。大げさなようだが、日本の民主主義が問われている。 (O)