2004年09月29日発行856号

【プロ野球ストライキ / / ストは正当な権利行使 / 経営側こそ「違法かつ不当」】

 プロ野球の選手会がストライキに突入した。これは労働者の正当な権利行使である。野球機構や球団が言うような「違法かつ不当なスト」ではない。当然、損害賠償などしなくてよい。シーズン大詰めの試合中止は残念だが、そうした事態を招いた責任は不誠実な交渉態度に終始した経営側にある。

非は経営側に

 古田が泣いた。労使交渉が決裂した9月17日の夜、選手会長の古田敦也はテレビ番組に出演していた。ファンからの激励メッセージが読まれると、古田は感極まった。「すみません。迷惑をかけたのはこちらのほうなのに…」

 古田よ、君が謝ることはない。ストライキは正当な権利行使ではないか。堂々と打ちぬけばいい。ファンに謝罪すべきは、球界の縮小再編に固執し交渉を決裂させた経営側の方である。

 選手会は当初、近鉄とオリックスの球団合併を1年間凍結するよう求めた。これが受け入れられないとなると、来シーズンからの新球団参入を促進し、2リーグ12球団制を維持するよう訴えた。

 この要求を経営側は「来季からの参入は、時間的に難しいので確約できない」と拒んだ。これは表向きの理由にすぎない。球団のなかには、阪神・中日のように新規参入積極派もいた。

 来季からの新球団参入には、巨人を中心とするグループが強硬に反対したという。なぜか。新たな合併による球団数の削減→巨人主導のリーグ再編(たとえば1リーグ制)というシナリオの妨げになるからだ。

 結局、巨人の主張が12球団の「総意」になるといういつものパターンがくり返され、労使交渉は決裂した。

賠償請求は違法

 「球団合併や新球団参入は『経営事項』にあたるので、これを理由したストライキは違法で認められない」と経営側は主張。ストによる損失分の賠償を選手会に請求する構えをみせている。

 これは労働法を無視した脅迫であり、不当労働行為に該当する。正当な争議行為には「民事免責」など法律上の保護が与えられている(労働組合法第8条)。そして、球団合併などの問題は選手の雇用・労働条件に直接関連しており、ストライキの理由として正当である。損害賠償請求の方が違法行為なのだ。

 このような法律無視の態度を経営側はとり続けてきた。労働委員会で適法な労働組合と認定された選手会を「労組ではない」と言い張り、団体交渉を拒否してきた。その対応は、東京高裁に「誠実さを欠く」「不当労働行為の責任を負う可能性がある」と警告されるほどであった。

 日本国憲法28条で保障された労働者の団結権を踏みにじり、難癖をつけて交渉を避けようとする−−こういう無法者の集団がプロ野球界を支配している。これは球団の親会社である大企業の体質でもある。人権小国ニッポンの現実が、プロ野球ストでまた明らかになった。

「読売」のストつぶし

 ストライキに対するメディアの反応はどうか。世論の大多数がスト決行を支持していることを反映し、選手会の決断に一定の理解を示す報道が多かった。

 そうした中、反ストライキの姿勢を鮮明にしている新聞がある。読売新聞である。9月18日付の社説は「ファン裏切る“億万長者のスト”」として、選手会を非難した。

 冗談ではない。今回のストライキには、一握りのスター選手だけではなく低年俸の二軍選手も参加している。球団数の減少で雇用の危機に直面するのは彼らだからだ。

 球団合併は経営難に苦しむ近鉄の救済だという、「読売」の主張など誰も信用しない。本当の狙いが巨人主導のリーグ再編にあることは明らかだ。だいたい、米大リーグが行っている放映権料の平等分配方式に猛反対し、パ・リーグの経営難を助長してきたのは誰か。ナベツネこと渡辺恒雄・前巨人オーナーではないか。

 「ストはプロ野球離れを招く」が「読売」の殺し文句らしい。だが、今回の騒動で最もファンを失望させた出来事は、読売新聞グループのトップに君臨するナベツネの「たかが選手」発言ではなかったか。自らの利益のみを考え、働く者を見下す経営者の傲慢な態度に世の人びとは憤慨した。それが低下の一途をたどる巨人戦のテレビ視聴率にもあらわれている。

   *  *  *

 日本は先進資本主義国の中で最もストライキの少ない国である。スト経験のある労働者は少なくなり、ストライキは事実上「死語」と化していた。そうした状況に風穴を開けたという意味で、プロ野球ストの社会的意義は大きい。

 労働者が団結して要求を突きつければ、経営者は無視できない。試合は中止になったが、プロ野球ファンの子どもたちは大切なことを学んだといえよう。     (O)

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