2004年10月06日発行857号
ロゴ:反占領、自由・平等をめざして

【第5回 占領で悪化した女性差別 / 「自由と権利」求める運動】

 占領下のイラクでは、ブッシュ米大統領がいう「イラク社会の民主化」とはまったく正反対の”不自由と不平等”が広がっている。特に女性に対する差別・迫害はますます激しくなっている。女性の自由と権利を守るために活動を続けるイラク女性自由協会(OWFI)がイラク北部・キルクークに設置したシェルターを訪ねた。 (豊田 護)


女性保護センター

 市の中心部から少しはずれた静かな住宅街。整然と区画割りがされ、同じ規模の住宅が建ち並んでいる。ある民家の前に車は止まった。看板がかかっているわけでもない。隣近所の人たちも、ここが”女性保護センター”と呼ばれるシェルターであることを知らない。

住宅街にある「女性保護センター」(8月16日・キルクーク)
写真:住宅街にある「女性保護センター」(8月16日・キルクーク)

 見知らぬ外国人が出入りすると何かと詮索を受ける。素早く家の中へと入った。20畳ほどの広さだろうか。通されたリビングにはテレビが1台。他に家具らしいものはない。

 「女性の生活が脅かされている。分断された社会の中で、ともに生きようと呼びかけ、シェルターをつくった。たいして家具はないが、女性は脅威から解放され、快適に暮らせている。入所してくる女性は自分の子どものようなもの。わけへだてなく接することを心がけている」

 シェルターの責任者・パラウィンが言った。彼女の役割は、虐待を受けた女性に安らぎを与え、心配を取り除いてやることだ。彼女はここを自宅とした。

男性優位の法律

 「レイプや恋愛などが原因で、女性が身内からあらゆる辱めを受け、家にいられなくなる場合が多い。イラクの法律は女性を2級市民としか見ないから、法律では解決できない。シェルターで、女性の生命と生活を救う必要がある」

占領下で女性差別が強まっている
写真:占領下で女性差別が強まっている

 一夫多妻制、離婚の権利、養育権、相続などイラクの法律は男性優位にできあがっている。裁判における証言についても、女性の場合は2人が同じ証言をしてはじめて1人の証言として扱われるという。「1959年にできた法律が、サダム以前の政権でも、いまの占領政権でも同じように使われている」とパラウィンは悔しそうな表情を浮かべた。

 このシェルターが開設して1年になる。これまで入所した女性は12人。現在は1人だけだ。

 「私はレイプされた。家にいられなくなって、逃げ出した。兄が街で私を見つけ、殴り始めた。警官が来て、私を未成年者(18歳未満)収容施設にいれた。レイプ犯人は、金の力で事件をなかったことにしようとしたが、結局2年の刑を受けた」

 スーザンはとつとつと語り始めた。これまで何度もインタビューを受けた。事件から8年近く経過している。だが、その都度辛い体験を思い出さねばならない。当初インタビューを拒んでいた。概略でよいという条件で応じてくれた。

政教分離が必要

 「事件後、独立女性センターという団体がスレイマニアに設置したシェルターに3年身を寄せていた。父親が迎えに来たが、私は断った。家に戻れば殺されるかもしれなかったから」

 シェルターのスタッフは父親にスーザンの命を保障するよう求めた。裁判所で、脅したり傷つけたりしないという確認書を取り付けた。家に帰って1週間後、親が選んだ男と結婚させられた。これが新たな虐待の始まりだった。

 「結婚して13日後、夫がレイプのことを知った。夫は私を殴り始めた。3年半虐待が続いた。その間に女の子が一人生まれたが、辱めや殴打が続き、家を出た。子どもは夫の側に。1年になるが、娘には会えない。それ以来、OWFIのメンバーと暮らしている。このシェルターの人びとは、私が娘に会えるように一生懸命努力してくれている」

 スーザンは少しだけ笑顔を見せた。

   *  *  *

 OWFIは女性の権利を守るためには政教分離の憲法が必要だと主張している。暫定政権に取り入った宗教勢力が、イラク憲法にシャリア(イスラム法)を持ち込もうとするのに待ったをかけている。

 OWFIの議長・ヤナールは、「政教分離を主張し続けるなら、殺すぞ」と何度も脅迫された。イラク北部・アルビルの支部長・サカールも自分の兄から同じような脅迫を受けた。彼女は身を隠しながら、OWFIの活動を続けている。

 誘拐・買春・レイプなど女性に対する犯罪は増加している。占領軍自身、アブグレイブ監獄だけでなく、市中公然と犯罪を繰り返している。占領者にとって女性差別は解消すべきものではなく、むしろ分断統治に必要なものなのだ。        (続く)

ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS