球界再編をめぐるプロ野球選手会と経営側の労使交渉は、新規球団の参入促進など7項目の合意で妥結した。球団合併の凍結はかなわなかったものの、2リーグ12球団制の維持に道筋をつけたいう点で、選手会側の勝利といえる。
選手会の勝因は、何と言っても世論を味方につけたことにある。合併反対署名は140万人分が集まり、2日間のストライキは世論の約8割が支持した。
経営側は「ストになればファンは選手会を見放す」と考えていた。実際、巨人やオリックスの代表はストに追い込むような挑発的言動をくり返した。だが、ストライキ決行後もファンの選手会支持は揺るがなかった。世論を敵に回した経営側は譲歩せざるをえなくなったのである。
日本は先進資本主義国で最もストライキの少ない国である。阪神の久万俊二郎オーナーは「ストは昭和20年代の戦術」とあざけわらった。そのような状況で、なぜ選手会のストライキは圧倒的な支持を得たのか。答えは簡単、横暴な経営者への怒りを世の人びとが共有したからである。
きっかけは、ナベツネこと渡辺恒雄・巨人前オーナーの「たかが選手」発言であった。球団オーナーとの話し合いを求めた選手会に対し、ナベツネは「無礼なことを言うな。たかが選手が。オーナーと対等で話す協約上の根拠はひとつもない」と言い放った。
己の利益のために球団合併をごり押しし、当事者である選手の意見を聞こうともしない−−球団経営者の傲慢さに多くの人が憤慨した。自分たちを苦しめている日本企業の人権軽視体質をそこに見たからだ。
リストラの嵐が吹き荒れる今の労働現場で、使い捨ての駒として扱われ、悔しい思いをしている者の何と多いことか。発言の機会すら与えられていない若い世代は特にそうである。
そうした「たかが従業員」「たかが派遣社員」「たかがパート」の積もり積もった怒りにナベツネ発言は火をつけた。「経営者の好き勝手を許してはならない」という思いが大きな世論となり、選手会の闘いを後押しした。
とりわけ、昼は労使交渉、夜は試合に奮闘した古田敦也選手会長にファンは拍手を送った。「あんな労組委員長がうちの職場にもほしい」と思った人も多いだろう。現場の思いとは無縁の御用組合(幹部)ではなく、働く者の代表として闘うまっとうな労働組合を世の人びとは求めている。「古田人気」はそのあらわれではないだろうか。
労働運動は死んでいない。資本の不当性を広く訴えていけば、同じ境遇にいる多くの人びとの共感を得ることができる。一人一人の行動が世論を動かし、社会変革の力となる−−このことを明らかにしただけでも、プロ野球ストライキには社会的意義があった。(O)