ロゴ:国際法を市民の手に 前田朗 2004年10月20日発行859号

『クラーク法廷(5)』

 クラーク法廷のための調査委員会報告書第3部は「証言と証拠」であり、12本の報告が掲載されている。

 ゴータム・ビスワスとトニー・マーフィー「イラクへの挑発」は、アメリカが長期にわたってイラクをねらっていたこと、イラク弱体化は長期戦略の一部であったことを論証している。

 ブライアン・ベッカー「対イラク戦争開始のためのアメリカの陰謀」も、「中東の豊穣な市場と資源を再分割・再配分するための戦争、言い換えれば、帝国主義戦争」としての「湾岸戦争」にいたる陰謀の数々を批判している。

 ポール・ウォーカー「アメリカの爆撃――湾岸戦争における外科手術的爆撃の神話」は、「精密爆撃」や「付随的損害」の実態をあばき、無差別爆撃による大規模破壊と多数の死亡を指摘している。

 ジョイス・チェデック「『死のハイウェイ』における撤退兵士の虐殺」は、バスラに向けて敗走するイラク軍兵士に対する一方的な殺戮の証言であり、「反撃する力も自衛する力もない数万人もの人間の一方的な虐殺だった」としている。

 デイヴィッド・レヴィンスン「イラクにおける保健衛生への戦争の影響」は、社会的基本施設の大規模破壊、特に保健衛生制度全体の破壊と麻痺が引き起こされた結果を分析している。

 アン・モンゴメリー「バグダッドの小児科病院に対する経済制裁の衝撃的影響」は、医薬品不足などによる子どもたちへの被害を明らかにしている。

 アデーブ・アベドとガブリエラ・ジェンマ「イラク社会における戦争の衝撃的影響」は、バグダッド、カルバラ、ナジャフ、ヒラ、バビロンなどにおける社会資本の破壊を報告している。

 「目撃証人のインタビュー」では、バビロン郊外の縫製工場の爆撃、アル・アメリヤ防空壕への爆撃、アンマンの爆撃、パレスチナ人への拷問などの証言を収録している。

 ムスターファ・エル・バークリ「イラクとクウェートにおける民間のエジプト人およびパレスチナ人に対する犯罪」は、アメリカによる民間人攻撃のうちエジプト人とパレスチナ人に対する弾圧や野蛮な取り扱いを報告している。

 ファドワ・エル・ギンディ「文明に対する戦争行為」は、「世界文明の揺籃の地」であるイラクがもたらした文明を確認し、これに対する大規模爆撃が何を意味するかを、考古学や芸術などの具体的な被害をもとに論じている。

 E・フェイ・ウィリアムズ「女性のピース・ボートに対する攻撃」は、戦争を防止しようとして試みた平和使節団に対する妨害を報告している。

 エリック・ホスキンズ「経済制裁の隠された真実」は、国連安保理事会による食料や医薬品の禁輸措置が「永続的な戦争」を意味し、流行病の蔓延と飢餓をもたらしたことを報告している。

 1991年の「湾岸戦争」における民間人被害の検証は、2003年のイラク攻撃による民間人被害の予告編となっている。無差別爆撃、意図的な民間人攻撃、民間施設攻撃、捕虜虐待、文化財破壊、経済制裁による病気と飢餓・・・。クラーク法廷のための調査報告書には、現在のイラクで行われている戦争犯罪と人道に対する罪の目録がすでに詳細に書き込まれている。ここに明示されていないのは、劣化ウラン弾による放射能被害だけといっていいだろう。劣化ウラン弾による被害は「湾岸戦争」後になって問題視され、調査されるようになったからである。クラーク法廷を機に立ち上げたIAC(国際行動センター)の活動の中で劣化ウラン弾問題が浮上し、その後の取り組みにつながっていった。

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