ロゴ:国際法を市民の手に 前田朗 2004年11月03日発行861号

第55回『クラーク法廷(6)』

 クラーク法廷は、1992年2月29日に判決を公表した。判決前文は「国際人道法の侵犯に関し、審判に臨む世界市民としての権利と義務を有し」と宣言したうえで、法廷の経過を確認している。各国・各地での公聴会における証言。文書証拠、目撃証言、写真、ビデオテープ、特別報告。専門家の意見。兵員と兵器の常備編成に関する書物。報道、雑誌、報告書、マスコミ取材。これらを踏まえて、法廷構成員は審議を行い、証拠を検討した。

 そのうえで、法廷は次の「事実認定」を行なっている。

 「国際戦争犯罪法廷の構成員は、証拠にもとづき各被告人を有罪と認め、添付の本訴状に申し立てる19のそれぞれの犯罪事実が合理的な疑いの余地なく立証されたと判定する。法廷構成員は、もし平和が存するべきであるならば、権力は必ずみずからの犯罪行為に対して責任を負わなければならないと確信し、ここに挙げられた罪状で有罪とされた者に対し最大級の非難を行なう。われわれは、調査委員会およびすべての人々に対し、権限ある者にその責任をとらせ、恒久の平和の基礎とされる社会正義を守るため、委員会の出した勧告に従って行動するよう求める。」

 判決はさらに「勧告」を付している。

 第1に、イラクに対する経済制裁(禁輸、制裁、懲罰)は人道に対する罪にあたるので即時解除を求める。

 第2に、イラク、リビア、キューバ、ハイチ、朝鮮、パキスタンその他の諸国およびパレスチナ人民に対するアメリカの新たな侵略を防ぐ大衆的行動を呼びかけ、アメリカによる軍事技術の使用とその威嚇を糾弾する。

 第3に、安保理事会が不法な軍事行動と制裁を承認し、アメリカによるあからさまな操作を受けたので、安保理事会の権限を国連総会にゆだね、常任理事国(拒否権)廃止を求める。

 第4に、報告や証拠資料の保存、アメリカのイラク攻撃に関する真実を広めることを求める。

 また、判決は最後に、アメリカ以外の各国政府や高官によって行なわれた犯罪行為について、将来、各国の委員会等がこれらを告発すること、政府による違法行為の再発防止に努力するよう求めている。

 判事は22名であったが、うち2名は欠席であった。アイシャ・ニエレレ(タンザニア、アルーシャ高裁司法官)、オルガ・メヒア(パナマ、人権委員会委員長)、バッサム・ハッダディン(ヨルダン、国会議員)、シェイク・モハメッド・ラシド(パキスタン、元副首相)、ローラ・アルビズ・カンポス・メネセス(プエルトリコ、元民族党党首)、シェリフ・ヘタタ(アラブ進歩統一党)、オパト・マタマ(アメリカ、先住民人権活動家)、ハルーク・ゲルゲル(トルコ、人権協会)、アブデッラザク・キラニ(チュニジア、弁護士)、ジョン・ジョーンズ(アメリカ、ベトナム帰還兵)、尾崎陞(元裁判官、弁護士)、ピーター・レイボヴィッチ(カナダ、鉄鋼労連会長)、ジョン・フィルポット(カナダ、弁護士)、ルネ・デュモン(フランス、農業学者)、トニー・ジフォード(英国、弁護士)、アルフレッド・メヒターシャイマー(ドイツ、国会議員)、デボラ・ジャクソン(アメリカ、弁護士)、グロリア・ラリーヴ(アメリカ、労働活動家)、キー・マーティン(アメリカ、反戦活動家)、マイケル・ラトナー(アメリカ、弁護士)。欧米中心とはいえ、アジアやアラブからも判事が選出されている。職業も弁護士や元裁判官などに加えて、政治家・外交官、人権活動家、労働組合会長など多彩な構成である。

ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS