2004年11月10日発行862号 ロゴ:なんでも診察室

【夜尿症と子ども】

 秋も深まると、夏には止まっていた「おねしょ」が再び始まってしまうことがあります。

 私は、小学校の修学旅行で「おねしょ」を心配しながら眠った京都の汚い旅館の夜をいまだに忘れることができません。中学に入っても、時々していたようで、黄色く実ったミカン畑の側に、おしっこで茶色になった布団が干されている光景もつい昨日のようです。母は必死で地蔵様に拝み、きつい肉体労働で稼いだお金を「おねしょに効く」という注射につぎ込んでくれました。

 そういうわけで、夜尿症については、子どもと親の気持ちがよくわかる気がします。

 夜尿症という病気にされるのは、5歳以上で、特に他の病気がないのに夜おしっこをもらす子です。昼間におしっこをもらさなくなるのは3歳児で98%です。しかし、「おねしょ」は5歳でも15〜20%、10歳で5%、15歳以上でも1〜2%が週2回するというデータがあります。ほとんどが発達とともに治ってゆくものですから、大部分は病気とはいえないものです。

 昼間ももらしたり、便をもらしたり、おねしょ以外の症状があれば受診して検査が必要です。また、最初に書いたように寒くなると再発することはありますが、再発は精神的な問題でおこることもありますので注意が必要です。単純な「おねしょ」だけなら、気長に止まるのを待ちます。

 さて、「おねしょ」への対応として、「起こさず、焦らず、怒らず」という標語があります。後の2つは当然かも知れませんが、「起こさず」には疑問があります。先日も小学3年の親は「12時ごろ1度起こしておしっこをさせると、もらさないのですが、起こすのはだめだと言われて困っています」とおっしゃっていました。このような場合、起こしてもいいと思います。

 実は、「起こすな」には、裏付けるデータはないのです。逆に、パンツが濡れ始めるとアラームが鳴る装置(夜尿アラーム)によって治るという効果がきちんと証明されています。また、目覚まし時計で起こす方法でも短期的な効果があります。

 逆に、起こしたら治癒が長びくというデータはないのです。「夜尿専門家」の「起こすと抗利尿ホルモンの分泌を減らし、膀胱に尿をためる習慣ができなくなる」という理論が夜尿の親子を苦しめているのかも知れません。おむつをすることも含め、親と子どもが楽なように対応することが一番いいかと思います。

 ともかく、楽天的だった私でも、このまま一生治らないのかと悩み、恥ずかしいのでどこにも泊まれず、「何で僕だけが」と悲しみました。しかし、この話をするとほとんどの方が「安心しました」と言ってくれ、大変役に立っています。

   (筆者は、小児科医)

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