2004年11月17日発行863号
ロゴ:反占領、自由・平等をめざして

【第10回 香田証生さん殺害事件に思う / 日本でも市民レジスタンスを】

 イラクで拘束されていた香田証生さんが殺害された。犯行グループの要求する自衛隊撤退を小泉首相が即座に拒否した結果である。自衛隊出兵は、国際法だけでなく、日本国憲法と政府自ら作り上げた国内法にさえ抵触する違法行為だ。だが、マスコミは違法行為を重ねる政府の責任を問わない。犯行グループの行為が免罪されていいわけでは決してないが、イラクの民衆は間違いなく「占領軍自衛隊の撤退」を望んでいる。(豊田 護)


「治安は自分たちで守れる」。自衛隊撤退を訴えるサマワの男性
写真:「治安は自分たちで守れる」。自衛隊撤退を訴えるサマワの男性

見殺しにした小泉

 今年4月に5人の日本人が拘束されてから半年。またも人質事件が発生した。結末は、昨年11月の2人の外交官と今年5月2人のジャーナリストに次ぐ5人目の犠牲者となってしまった。残念でならない。

 一般に身代金誘拐事件で、「金は払わない」と広言すれば、人質の命が保障されないのは誰が考えてもわかる。小泉首相は真っ先に「自衛隊は撤退しない」と犯行グループの要求を拒絶した。「テロには屈しない」と逆に自らの違法行為続行を宣言した。殺したければ殺せと見捨てておきながら「救出に全力を尽くした」と言える神経は、理解しがたい。

 外務省職員の殺害事件ですら、多くの謎を残したまま放置している日本政府である。情報は米軍まかせ、一般国民の命など利用こそすれ、救出への努力などまったくしないのは既定のことなのだろう。

 これほど無責任な政府をなぜマスコミは追及しないのだろうか。報道は、明らかに政府の対応よりも香田さんの行動に批判の矛先を向けていた。「自分さがし」「単なる好奇心」。だが、考えてほしい。それがとがめられねばならない行為なのか。社会での役割を考えようと旅に出る若者を責めることはできない。誰が近づくことさえ危険な状況を生みだしたのかをまず問うべきではないのか。

占領軍への憎悪

 4月の事件で、政府が振りまいた「自己責任」を増幅したマスコミは、その後イラク現地から撤退した。今イラクで何が起こっているのかを直接取材できるマスコミはほとんどない。あっても、ホテルに缶詰。情報は、欧米マスコミや自衛隊提供の原稿・資料に依存している。そんな状態で、日本を非難する声が届くはずがない。政府が狙った口封じが成功を収めたわけだ。

 「危険だから」と近づかないマスコミが、「危険も知らず」入国したと青年を非難することに、ジャーナリストとしての後ろめたさはないのだろうか。

 香田さんの遺体が発見されたというバグダッド中心部ハイファ通り。米大使館が居座るサダム宮殿入り口から北西に延びる。「市内では最も治安が悪化している地域」と現地にいないマスコミは解説するが、実際にどんなことが起こっているのか、報道はほとんどない。

 地元紙によれば、米軍による掃討作戦が激しさを増した9月半ば、この通りでも米軍は容赦のない爆撃を行った。武装勢力の攻撃を口実に、米軍ヘリが非武装の民衆をミサイルで殺している。取材中のアル・アラビア記者も殺された。以来、1か月以上にわたって米軍の掃討作戦と武装勢力の反撃が繰り返し行われている。つまり占領軍による虐殺が続いている地域なのである。

 そんな場所に、星条旗に包まれた香田さんの遺体が投棄されたのだ。占領軍に対する怒りを一身に背負わされた結果といえる。武装勢力の住宅地を戦場に選ぶ戦術や人質殺害を非難するイラク民衆の良識は、占領軍の虐殺行為に対する怒りでかき消されてしまうのだろう。

「自衛隊は米国を守るためにいる」と語る失業者
写真:「自衛隊は米国を守るためにいる」と語る失業者

「自衛隊はいらない」

 「自衛隊は一体誰から誰を守ろうというのか。私たちなら自分で守れるのに」と1月に訪れたサマワの失業者は言った。8月キルクークで出会った失業者は「自衛隊は誰を守るためにイラクにいるのか」とわたしたちに問うた後、すぐに自ら答えを言った。「答えは簡単だ。アメリカさ」

 ファルージャでインタビューを拒否した人は「日本は米国と一緒になってイラクを侵略した最初の国だ。そのうえ経済制裁で長年苦しめた。日本は一体何をするつもりなんだ」と怒りをぶつけた。

 「誰も助けてくれと頼んだ覚えはない」「国民の力で日本政府の考えを少しでもいいから変えてほしい」とサマワ民衆は訴えた。

 小泉首相は、たとえ駐留自衛隊が襲撃を受けようが自衛隊員が死のうが、決して「撤退」を口にすることはないだろう。占領国の分け前を手にするために、イラク人の命も日本人の命も顧みることはない。

 自由・平等なイラク社会を築くために、非武装で占領政策と闘う市民レジスタンス運動が広がっている。日本の占領政策に反対する日本の市民レジスタンスが問われている。         (続く)

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