ロゴ:童話作家のこぼればなしロゴ 2004年11月24日発行864号

(37)『「熊騒動」に思うこと』

熊のイラスト

 日本と韓国では、熊がおかれた境遇が随分と違う。それを象徴する出来事があった。

 日本で、いわゆる「熊騒動」が起こっていたその真最中の10月15日のこと。韓国は絶滅の危機にあるツキノワグマを増やそうと、ロシアから輸入した野生の6頭(オス3頭・メス3頭)を「智異山(チリサン)国立公園」に放ったのだ。韓国の新聞やテレビは、名前の付けられた熊たちが元気に木を登ったり、じゃれあったりする微笑ましい姿を大々的に報じた。

 環境部によると、08年まで計30頭の野生ツキノワグマをロシアから輸入し智異山に放ち、自己繁殖可能な50頭前後を生息させるという。これまで動物園で人工繁殖させた熊を放ってきたが、今回、初めてロシアの野生の熊を放った。

 韓国の人たちがそこまでして「熊の復活」に取り組むのには訳がある。朝鮮半島で最初にできた古代国家―古朝鮮の建国神話、「檀君神話」に熊が登場するからだ。神話は、人間になることを望んだ熊と虎が、天神から洞窟の中でヨモギとニンニクだけを食べて過ごすよう教えられる。熊だけが最後までやり遂げ、ついに美しい熊女(ウンニョ)になる。天神に嫁いだ熊女は、建国の祖―檀君王倹を産むという話だ。つまり、韓国・北朝鮮の人々は、熊を「民族のオモニ」と崇めてきたのである。

 韓国では独立後、檀君による建国がなされたという紀元前2333年を元年とする檀君紀元が1961年まで用いられていた。今でも子どもたちの動物図鑑の最初のページは熊と、相場が決まっているくらいだ。

 ところが、そんな熊を絶滅へと追いやることになったのが、日帝時代の、日本の警察や憲兵による大規模な駆除作戦だった。総督府が記した公式記録だけを見ても、実に1059頭の熊が駆除された。「オモニ」を殺された子どもたちの恨(ハン)の深さは、みなさんにも想像できることだろう。

 その後、朝鮮戦争や「熊胆」(熊の胃)を狙う密猟により、半島の熊は激減した。現在、韓国のツキノワグマの生息数は30頭ほどといわれ、北朝鮮の生息数は公表されていないが極めてわずかのようである。

 日本で熊を殺すくらいなら、韓国に譲ってあげればいいのにと誰もが思うことだろう。が、日本のツキノワグマは、朝鮮半島、中国、ロシアに棲むツキノワグマとは違う亜種と位置づけられている。遺伝子の撹乱を避けるため、韓国には導入できないのである。

 保護と駆除の意見が拮抗する日本のツキノワグマは、九州ではすでに絶滅したと考えられ、西日本各地で深刻な状態に陥っている。いなくなったからといって外国から導入することのできない貴重な熊が、日本に棲んでいることを忘れないで欲しい。

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