ロゴ:国際法を市民の手に 前田朗 2004年12月15日発行867号

第58回『女性世界法廷(2)』

 1994年3月12・13日、早稲田大学国際会議場において、女性の人権アジア法廷公聴会が開催された。

 1991年にソウルで開かれたアジア女性人身売買問題会議の際にアジア女性人権評議会が提案し、日本の「アジアの女たちの会」(当時)が20余りの団体に呼びかけて「女性の人権委員会」を結成し、公聴会が実現した。法廷企画は3月9日から14日にかけて6日間のキャンペーンであり、人身売買被害の下館事件現地視察や、女性の家HELP見学や、人身売買被害女性の追悼のためのキャンドル・マーチなども行なわれている。

 公聴会は、第1部「現代の人身売買」、第2部「基地買春と国連PKO」、第3部「日本軍『慰安婦』制度」の構成だが、13日はジャパン・デーとして、人身売買裁判、「慰安婦」問題、売買春問題や、アジアからの花嫁と子ども、買春男性問題なども取り上げられた。そして、14日に「東京宣言」を採択した。

 第1部はアジア女性の人身売買についての7人の証言である。インドでは「デヴァダシ」と呼ばれる「神の使い」の慣行があるが、これは宗教の名による人身売買である。7歳でデヴァダシに売られた女性が証言した。タイにおける人身売買の被害例として、だまされて14歳の娘を日本への人身売買によって奪われた女性が証言した。この母親は女性救援団体「みずら」の努力によって娘と再会できた。ネパールの「変革のための女性共同行動」代表は、インドで売春させられているネパール女性の情況を報告した。バングラデシュの「ユビニク」代表は、バングラデシュとパキスタンの間の人身売買について証言した。フィリピンの「バティスセンター・フォー・ウィメン」は、バブル期におけるフィリピン女性の日本の性産業への「輸出」を報告した。また、在日スリランカ人女性が、花嫁あっせん業の問題性について語った。最後に台湾の「草の根女性労働者センター」代表が、人身売買やエイズの被害を報告した。

 3部のいずれも「陪審員」をおいて、証言の後にそれぞれのコメントを行なっている。第1部の陪審員は林陽子(弁護士)、武者小路公秀(明治学院大学教授)、クリシュナ・アイヤー(インド前最高裁判事)である。[肩書等はいずれも当時]

 第2部「基地売春と国連PKO」では、土井たか子(衆議院議長)のあいさつに続いて、4つの証言が行なわれた。最初に、韓国における米軍基地買春被害者が「アメリカンバー」での体験を証言した。フィリピンの「オロンガポ・ブックロド・センター」代表は、売春をさせられている女性たちの救援と教育の経験を報告した。「カンボジア女性開発協会」代表は、国連暫定統治機構の国連PKO部隊による強姦など性暴力の実態を証言した。最後に沖縄の米軍基地における性暴力と強制売春について報告した。

 第2部の陪審員は、コリーヌ・クマール(アジア女性人権評議会)、大脇雅子(弁護士、参議院議員)、ヴェスナ・ケシク(クロアチア戦争被害女性センター)である。

 第3部「日本軍『慰安婦』問題」では、韓国の被害者である金福童さん、慰安婦被害者で在日韓国人の宋神道さん、フィリピンの被害者ビクトリア・カンラス・ロペスさんが証言した。続いて、マレーシアの「女性行動協会」代表が、知られざるマレーシアの被害状況調査について語った。

 第3部の陪審員は、李愚貞(韓国・国会議員)、寺沢勝子(弁護士)、鈴木裕子(女性史研究者)、清水澄子(参議院議員)である。

(参考文献)「女性の人権」委員会編『女性の人権アジア法廷』(明石書店、1994年)

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