2004年12月15日発行867号 ロゴ:なんでも診察室

【劣化ウランの「安全性」に反論】

 12月4日の大阪小児科学会に劣化ウランの催奇性と発ガン性についての2報告を医療問題研究会から発表しました。実は今年になって、劣化ウランの健康障害や環境汚染はほとんどないですよという、とんでもない文章が3つも出ています。これに対する科学的反論の必要性を感じたことも発表の原動力でした。

 日本原子力文化振興財団は、6月に「劣化ウラン弾による環境影響」というパンフレットを報道関係者に配布しました。これは、劣化ウラン弾の「安全性」ばかりか、その利点まで説いています。これに先立つ2月には、日本原子力研究所が「劣化ウランについて」という文章をだしています。これも、劣化ウランは「直ちに健康問題に結びつく証拠はえられなかった」、「将来有望なエネルギー資源となる」などと書いています。小泉流の乱暴な居直りの論理です。

 今年3月号の「防衛衛生」という医学雑誌に、作田英成氏の「劣化ウランの身体的影響」という論文がでました。こちらは、WHO(世界保健機関)のレポートをはじめ34の文献をあげた本格的論文です。結論は、1996年の米国大統領諮問委員会答申「劣化ウランと湾岸戦争症候群の関連を示す証拠は見いだされない」を支持し、湾岸戦争帰還兵のガン・死亡・子どもの奇形増は「ほぼ否定されています」としています。しかし、WHOレポートの毒性に否定的な部分は引用していますが、強い汚染地区は洗浄すべき、などの勧告には触れていません。また、湾岸戦争帰還兵の子どもの奇形発生率については、除隊した兵士や流産を除外した欠陥研究だけを紹介するなど、とても科学的とはいえません。

 今回私は、湾岸戦争帰還兵の子どもの奇形に関する研究を、徹底的に分析しました。すると、前述の欠陥論文でさえ、女性兵の子どもの奇形が1・12倍に増加していることを証明していました。1996年に調査した米退役軍事局ハン・カン氏らのまともな調査では、湾岸戦争帰還兵の男性兵には2・3倍、女性兵には2・8倍の奇形児が発生し、1996年以後に調査した米・英からの5論文のすべてが、奇形や流産の増加を証明していました。作田論文はこの面で完全に嘘をついていたのです。

 山本英彦氏はチェルノブイリやレントゲン検査などの「医療被曝」によるがんの増加なども含めて、劣化ウランの発ガン性を証明しました。

 ところで、今回の大阪小児科学会では、私たちの要望が理解され、劣化ウランや「医療被曝」も含めた「低線量被曝」について、委員会の作業グループとして研究してゆくこととなりました。子どもにとって大変喜ばしいことですので、ご報告まで。

(筆者は、小児科医)

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