2005年01月28日発行871号
ロゴ:反占領、自由・平等をめざして

【第16回 分断統治に利用されるクルド人 / 民族対立あおる占領当局】

 アラウィかいらい政権は、議会選挙を前に非常事態宣言を再延長した。この非常事態宣言の対象から北部のクルド地域がはずされている。クルド政党は米英侵略軍を受け入れ、かいらい政権にも名を連ねている。そこにはクルド人の権利擁護とは無縁な分断統治のための政治的思惑がうごめいている。市民レジスタンスはクルド問題をどのように解決しようとしているのか。

    (豊田 護)

クルド弾圧の歴史

 「サダム・フセイン体制が崩壊し、イラクが国家ではなくなってしまったから、われわれのキャンペーンは中断した。新たな政府が政教分離を実現し、民族主義に基づかないものになることを期待している」。イラク労働者共産党(WCPI)キルクーク支部長ラマダン・サビルが語った。「独立国家が必要かどうかは住民自身が決めるべきだ」と、サダム体制下で住民投票を求める「クルド分離運動」を進めてきた。何が何でも民族独立を掲げるのではなく、民族の違いを前提とした対等平等な市民権が保障されるべきだとの主張が根底にある。再建されるイラク社会はそうあるべきだと思う。

結婚式で踊るクルドの娘たち(トルコ・マルディン)
写真:民族衣装に身を包んだ娘さん

 クルド人は「国を持たない最大の民族」といわれている。2000万〜3000万人が、トルコ・イラク・イラン・シリア・アゼルバイジャンにまたがる地域に住んでいる。西欧各国にも分散しているが、クルド人は何千年も前からこの地域で暮らしてきた。

 第1次大戦後、英仏帝国主義は、クルド独立の約束をほごにしてクルディスタンとは無関係に国境線を引いた。方言も多く、独自の文字を持たないことから、クルディスタン全体の独立運動は起こらなかった。にもかかわらず、各国政府は自国内に抱え込んだ少数民族のクルド人を"反政府活動"の象徴的な存在として弾圧してきた。

民族共存の社会を

 2004年8月にイラクを訪れたとき、トルコ国境から入った。クルディスタンを縦断するルートだ。イラク失業労働者組合(UUI)のメンバーからは最も安全なルートだと言われた。クルド政党の支配が及んでいるからだ。

 クルディスタンの中心都市アルビルの街を通過しようとしたとき、検問にかかった。乗っていた車の色がまずかった。以前クルド政党の事務所が自爆攻撃にあった。使われた車が同じ黄色だったという。治安部隊の責任者に直接面談し、許可を得た。

 確かに、見知らぬ者を排除する治安体制は整っていた。しかし占領軍の直接的な暴力はないかも知れないが、武装勢力の攻撃は起こっていた。

 ダホークの街には「バース党独裁政権を倒した米英連合軍に感謝する」と書かれた横断幕が掲げられていた。クルド政党は米英侵略軍とともに旧イラク軍と闘った。占領体制にも参加している。

 「クルド民族主義諸政党は米占領当局に取り入って、分け前にあずかろうとしている。これまで、われわれの進めてきた分離運動にも反対してきた。サダム・フセイン政権による弾圧を利用しながらクルド民衆の願いを抑えつけていた」

 クルド政党がクルド人全体の利益を代弁したものではないことはたしかだ。クルド民主党(KDP)とクルド愛国同盟(PUK)は互いの主導権争いを繰りかえしてきた。

 クルド政党は1970年、当時のバース党政権と自治権承認の協定を結んだ。自治区の範囲を巡り合意に至らず、結局自治区が実現したのは1992年、湾岸戦争後であった。ダホーク・アルビルの2県はKDPが、スレイマニア県はPUKが支配し、統一自治区とはなっていない。

 そして今、占領下では石油の街キルクークを巡り、アラブ人とクルド人の民族対立が煽られている。

 「キルクークでは労働者の分断が行われている。民族や宗派の違いが強調される結果、労働者としての共通した要求・闘いにとって困難な状況になっている。何十年にもわたって、民族間対立が労働者の闘いの障害になってきた。クルド政党は、労働者の闘いを民族闘争にすり替えてしまった」

 UUIやWCPIにも多くのクルド人メンバーがいる。「労働者の闘いはもっと前進できたはずだ」。ラマダンの言葉には悔しさが表れていた。

 歴史を振り返るまでもなく、多くの民族がこの地を行き交い、生活してきた。民族の違いが争いの種になるはずがない。キルクークのアルタザムン(連帯)地区の取り組みが実証している。

 クルド人を最も激しく弾圧しているのはトルコ政府だ。そのトルコ政府に対する一番の軍事援助国は米国だ。イラクのかいらい政権の中でクルド政党の占める位置は大きい。しかし、それはクルド人の権利擁護というよりも、分断統治の一つの駒にしか過ぎない。自由・平等の社会は民族共存の社会でもある。(続く)

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