2年前、米国のティーンエージャー2人が「自分たちが肥満になったのはハンバーガーのせいだ」として、マクドナルド社を訴えたことがあった(裁判所は「食べすぎは本人の責任」として原告の請求を棄却)。
このニュースを知った映画監督のモーガン・スパーロックは自分の体で検証することにした。現在、米国は成人人口の60%が過体重という世界一の肥満大国である。毎年40万人が糖尿病や心臓疾患で死亡する。これを「消費者の自己責任」で片付けていいのか。
映画『スーパーサイズ・ミー』は、巨大食品産業に支配された現代の食生活に警鐘を鳴らすドキュメンタリーである。
スパーロックが自らに課した人体実験は次のとおり。1か月間、マクドナルド店のメニューだけで食生活をまかなう。店にスーパーサイズを勧められたら断らず、残さず食べる。
これを読んだ人に忠告する。絶対にマネしないでほしい。確実に命を縮めることになる。1か月の実験でスパーロックの体重は11kg増え、コレステロール値は危険領域に上昇した。痛風、高血圧、脂肪肝…。“マクドナルド漬け”は、健康そのものだったスパーロックを病人にした。
「極端な実験でマクドナルドを断罪するのはフェアじゃない」という意見もあるだろう。だが映画での実験は、スパーロックが語るように、平均的米国人の食生活からそれほどかけ離れたものではない。
「実際、毎日ファストフードばかり食べてるアメリカ人は大勢いるんだよ。アメリカの大部分を占める田舎では、チェーン・レストランに地元の小さな店がみんな潰されて、他に選択肢がなくなってしまっているんだ」(『映画秘宝』2004年9月号)。
低賃金長時間労働を強いられる労働者(特に若者たち)は、安くて手間いらずのファストフードに頼りがちになる。肥満による健康障害が貧困層に多発しているのはこのためだ。
さらにファストフードには、それ自体に中毒性がある。スパーロックはファストフードを食べないとイライラし、食べるともっと欲しくなる“マック依存症”に陥った。食品に含まれる中毒性物質が原因だ。
ファストフード産業はそれを承知でやっている。子どもをファストフード中毒にすることは彼らの最も重要な販売戦略である。そのために大量宣伝や景品で子どもの関心を引き寄せ、教育設備の寄付をエサに学校給食にも進出する。
『スーパーサイズ・ミー』が描き出した米国の事態は対岸の火事ではない。ファストフード産業はグローバル資本として世界各地に進出し、人々の命と健康を文字どおり食い物にしようとしている。
「食」の見直しはトータルな社会変革の課題だが、まずは自分の体を守るところから始めてはどうだろう。ハンバーガーやコンビニ弁当ばかり食べてはいけない。死ぬぞ。 (O)